2003年08月28日

都市再生は不良債権問題を解決するか -的外れな地価反転待望論

  松村 徹

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先日、某テレビ番組が都市再生を取り上げたいというので取材を受けたところ、用意された「都市再生政策によって地価が上がり、その結果、不良債権問題が解決する」というシナリオに沿った発言を求められ、自分の見解と異なるので当惑した。

確かに、大規模プロジェクトが完成すると、その土地は従前より高度利用されて収益性が高まるはずなので、収益還元法を基に計算された当該地域の地価は上昇することになる。実際、東京丸の内(千代田区)や品川駅東口(港区)など都心の一部で今年の路線価が上昇した理由として、最新鋭の大型オフィスビルの竣工が指摘されている。また、六本木ヒルズ(港区)のような集客力の強い複合用途開発であれば、当該地域の来街者が近隣の商店街などを潤し、より広い範囲に地価上昇が及ぶケースも考えられる。

しかし、現在のように景気低迷でオフィス需要全体が弱含んでいる状況下で、特定のプロジェクトやエリアに大きな需要が集中すれば、一方で需要を奪われるビルやエリアが発生することになる。空室率上昇や賃料収入減少でキャッシュフローが縮小したビルの価格は当然下がるため、地価の二極化は避けられないのである。住宅地においても、都心部のマンション開発による人口の都心回帰現象が続けば、住宅需要の低迷する郊外部の地価は下げ止まらず、都心と郊外の地価格差は拡大する。先般、再開発コーディネーター協会が「身の丈にあった」新たな再開発のあり方を提言したが、土地の高度利用を目的にした従来の再開発事業方式では、当該事業に需要が集中するために地域全体の需要配分を歪めるとしている点で、問題意識は同じといえよう。

信用力と実績のある大企業が中心になって進める都心部の大規模プロジェクトは、都市再生プロジェクトとして期待も大きい。これらは競争が激化するオフィス市場において勝ち組に属するため、このようなプロジェクトへの融資は健全債権であり、今後、不良債権化する可能性も低いであろう。これに対し、競争力が劣り需要を奪われるビルへの融資は、すでに不良債権化しているか、今後、不良債権化する可能性が高いといえる。

つまり、現在の東京の不動産市況を前提にすれば、都市再生政策が大規模な開発事業を促進すればするほど、市場の二極化が加速され、不良債権額が増加する可能性が高いのである(補足)。さらに、人口減少・高齢化を背景にオフィス需要が縮小局面を迎える2006~2010年にかけて、立地条件や建築・設備仕様などに劣るビルやエリアでの需要減退が著しくなるため、不良債権額はさらに拡大すると予想される。このいわゆる「2010年問題」シナリオは、人口や経済機能の東京一極集中が加速することで回避される可能性もあるが、その場合は、地方都市の地価下落に一層拍車がかかり、地方金融機関の不良債権問題を悪化させるであろう。

かつてのインフレ時代と異なり、オフィスビルなどの投資用不動産は、当該物件が生み出すキャッシュフローを基に収益還元法で評価するのが基本である以上、特定の物件価格の上昇が無条件に他の物件や地域に波及することはないはずである。これは何も特別な事象ではなく、収益還元法による不動産評価が主流になったため、インフレ時代には見えなかった不動産個々の品質格差が露になったにすぎない。地価高騰で郊外に向かわざるを得なかった住宅需要では、より都心に近く利便性の高い場所に安くて広いマンション供給が増加したため、本来の職住近接指向が顕在化したといえる。

また、そもそも「地価が上昇すれば(不良債権問題が解決して)日本経済が再生できる」のでもない。実体経済が活性化してはじめて不動産に対する実需が増加し、その結果として利用価値の高い優良な不動産が値上がりする、という因果関係であり、土地本位制のバブル経済に逆戻りすることはできないのである。

情報開示がないため、現在、地価反転に期待して最終処理が先送りされている不良債権が全国の何処に、どれほど存在しているのか全くわからない。しかし、資産デフレの長期化で市場の二極化がさらに進むとすれば、不良債権はできるだけ早期に損切り処理すべき、というのが最善の選択であろう。

結局、番組構成にそぐわないという理由で以上のコメントは放映されなかったが、不動産市場の需給実態に目をつぶった、この種の希望的観測が世論形成に影響を与えるかと思うと残念である。

※ 日刊建設工業新聞2003年8月28日『所論/諸論』掲載原稿に一部加筆修正

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