2003年05月09日

大規模開発は日本経済を再生するか -都市再生プロジェクトへの期待とその限界

  松村 徹

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東京都心部では、昨年9月にオープンした丸の内ビルディングに始まり、泉ガーデンタワー、電通本社ビル、汐留シティセンター、品川グランドコモンズ、六本木ヒルズなど、超高層オフィスビルが次々に竣工している。はやくも東京観光の新名所となった感のある丸の内ビルディングを筆頭に、デザイン的にも優れた最新鋭のオフィスビルと魅力的なレストランやショップ、文化施設などとの複合開発が目立つこともあり、不動産事業という硬いテーマには珍しく、テレビや雑誌などマスメディアで取り上げられる機会も多い。

このような華やかな開業イベントや店舗、街並み紹介の一方で、大型ビルの新規供給集中で賃貸オフィス市場が悪化する「2003年問題」もマスコミに格好の話題を提供している。今年のビル開業ラッシュが、景気低迷で縮小するオフィス需要の奪い合いに拍車をかけるというわけである。また、規制緩和で大規模開発を促進しようという都市再生政策もあり、2004年以降もオフィスビル供給は止りそうもなく、多くのビル事業経営者にとって厳しい時代が続くと予想される。

しかし、不動産を持たない利用者側からみれば、このビル開発競争は「問題」どころか歓迎すべき千載一遇のチャンスである。テナント企業は、都内各所に分散しているオフィスを一等地の最新鋭ビルに統合して業務効率を向上させたり、社員のモラールアップを図ることができる。また、最新鋭ビルにテナントを奪われた既存ビルは、リニューアルや賃料引下げで新しいテナント誘致に必死となるため、他のテナント企業は以前より有利な条件でオフィスを借り替えることができる。生活者や観光客にとっては、業務機能中心で近寄りがたかった東京のオフィス街が、華やかで高度な消費やレジャーの場として開放されたといえる。何よりも、現在の東京の不動産ストックが抱える震災リスクの大きさ、非効率な土地利用や環境問題、弱者や景観への配慮不足などを考えれば、大規模開発により都市の機能更新が進むことの社会的意義は非常に大きい。

ただし、このような大規模開発プロジェクトに、日本経済再生の切り札として過大な期待をかけるべきではない。東京の都市再生が日本経済の復活につながると論じる向きが少なくないが、そもそもその論理がはっきりしない。東京の都市開発プロジェクトが大きな建設需要を生んでいることは間違いない。しかし、日本経済の長期低迷が、インフレを前提に形成された経済・社会システムの機能不全によってもたらされているとするならば、デフレ時代に対応した規制緩和や税制の見直しなどにより企業活力の再生や企業の成長を図ることこそ経済復活のために必要といえる。

都市開発は、企業活動や消費活動という酒を盛る器を提供するインフラ整備事業であり、それ自体が新しい酒を造ることはできない。世界都市にふさわしいハイテクビルやレジャー施設の建設は可能でも、東京が国際的な経済・金融センターとして再び脚光を浴びるかどうかは、日本の金融市場や消費市場の規模とその成長性、アジア圏での経済拠点性などが、国内外の企業からみて十分に魅力的かどうかによって決まるのである。

とはいえ、最新鋭ビルに採用されている様々なハイテク技術は注目に値する。特に超高層ビルの長寿命化や省エネ、環境負荷の制御に関わる技術、空間の快適性や業務の効率性を高める技術の多くは、海外に輸出できる先進性と普遍性を持っていると思われる。また、エリア全体の魅力向上を目的に大手町・丸の内・有楽町地区や六本木ヒルズで取組まれているタウンマネジメントも、都市再生に不可欠なソフトウエアとしてより高度化し洗練されていくと期待できる。

このようにみれば、個別の建築やプロジェクトにとどまらず、たとえば都市のヒートアイランド現象の抑制や国際都市としての魅力向上などをテーマとした総合的な都市マネジメント技術の開発に、官民学共同で積極的に取組む絶好の機会が到来しているともいえる。

※日刊建設工業新聞2003年5月9日掲載原稿に一部加筆

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