2003年03月25日

日本の製造業復権に向けた論点整理

社会研究部 上席研究員 百嶋 徹

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1.
製造業の付加価値額(名目GDP)は、過剰供給などによるマージン低下により、2001年までの11年間で11%低下し、経済全体に占めるウェイトは20%と6ポイント低下した。労働と固定資本への分配額は若干抑制されたものの、付加価値の減少に追いつかず、企業の営業余剰は12%減少した。
2.
製造業の復権とは、縮小均衡による企業収益向上を図るのが目的ではなく、付加価値向上により各経済主体への分配をバランスよく増やしていくことを目指すべきである。サービス経済化や国の科学技術の「重点4分野」の育成・強化を進めるためにも、強い製造業の存在が必要である。製造業の存立条件は高付加価値化に加え、強い汎用品領域を併せ持つことであると考えられる。
3.
付加価値の成長には、設備投資や研究開発投資などの先行投資の継続的な投入が欠かせない。過剰な労働や設備を適正規模まで削減し、低迷している企業収益を立て直したうえで、継続的な戦略投資が付加価値向上に結び付く好循環を生み出す必要がある。製造業の収益構造を先行投資に耐えうるレベルへ底上げするために、産業再編成の早急な実施が求められる。
4.
競争劣位な工場が赤字操業であっても、工場撤収に伴う財務負担が大きいために操業が継続され、消耗戦が続く可能性も否定できない。消耗戦は経済厚生の低下につながるため、生産性の低い企業(あるいは工場)の市場退出を促し、消耗戦の期間を減じる産業政策が求められる。税制措置を含む環境整備は産業再編成のための必要条件と考えられる。
5.
現状のわが国の製造業は、好況期での収益上昇力が海外企業に比べ小さい。これは、供給過剰のために市場支配力が弱いこと、先行投資不足のために設備更新が進展しないことに起因すると考えられる。これらの根底には、投資行動や価格決定における横並び戦略があるとみられる。
6.
製造業復権に向けて解決すべき問題点の本質は、不明確な経営思想・戦略ビジョンに収斂してくる。経営トップが十分に見渡すことのできる事業領域を見極めることが重要であり、「範囲の不経済」に陥らないためにも、トップダウンによる明確な戦略ビジョンの構築が求められる。企業の付加価値創造力は特定の事業形態や製品分野により決まるのではなく、経営の巧拙で決まるのである。
7.
経営トップが説得力のある経営ビジョンをトップダウンで覚悟をもって実行していくことが重要であり、これによって従業員や株主などステークホルダーからの共感も得られ、明確な戦略ビジョンを共有する下で全社一丸の体制が構築できると考えられる。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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