コラム
2002年04月01日

決済性預金のペイオフ解禁に向けて

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1.ついにペイオフが開始される

ついに4月からペイオフが解禁となった。ペイオフに対する国民の認知が低くく、安全対策が取られないまま解禁となってしまうのではないかとの懸念もあったが、預金統計をみると預金者の確実な対応が見て取れる。

信用力が高い都市銀行・地銀への移し替えを行なったり、いくつかの銀行に預金を分散し、1000万円以下にするなどの防衛策が取られたようだ。またペイオフの対象とならず全額保護が約束されている「決済性預金(普通預金や当座預金など)」へ一時避難させるという対応も多かったようである。
業態別預金残高の推移/主体別預金の動向

2.決済性預金ペイオフ解禁とは

普通預金・当座預金などの預金は、企業間の取引の支払など日常の「決済」に利用されることが多い。このため「決済性預金」のペイオフ解禁の影響は今回解禁となった定期預金などに比べ格段大きいと判断され、1年間の猶予期間がとられている。

決済性預金のペイオフ解禁はどのような影響が心配されているのだろうか?

「決済性預金」のペイオフが解禁となれば、現在の定期預金と同様に、全額保証から元本1000万円とその利息のみが保証範囲とされる。1000万円を超える部分については、銀行破綻後、払い戻額が確定した段階で企業に支払われることになるが、確定には時間が掛かってしまい、企業は支払確定日まで決済資金として利用できないことになる。

このため企業にとっては「銀行の破綻」というまさに「不運」な事態によって、新たな決済資金を調達しなくてはならないということが起こってしまうのである。

このような「不運」に向け、どのような策が講じられているのだろうか?

預金保険機構では、破綻金融機関を通じて善意かつ健全な借手への資金繰り融資を続ける方針を打ち出しているが、破綻当日に運転資金を貸し出せるかどうかは不透明である。

また、支払確定前に、一部を支払う「概算払い」の制度もあるが、その支払い金額もケースにより異なるうえに、支払時期も破綻同時とはいかず、ある程度時間がかかってしまうようである。

残念ながら現在のところ企業の自衛策に頼る部分が大きいのだ。預金金額を1000万円以下にし、決済金額も1000万円以下に抑えるとの動きが強まるだろうが、企業の資金決済金額に比べて1000万円があまりに小さすぎるだけに、根本的な解決にはならない。

3.決済をとめない「迅速な処理」

銀行の破綻処理を行ないつつも「決済」を継続させるにはどうすればいいのだろうか?。

A(資産負債継承:破綻金融機関の預金や貸出などが受け皿金融機関に引き継がれる。預金者は受け皿金融機関に口座が移る上に、決済も利用可能)のような迅速な処理方法が機能すれば「決済」を継続させることは可能である。

しかし、そのためには早期是正措置を機能させ、銀行の自己資本がちょうどゼロになった時に P&Aによる破綻処理を開始するさせるための事前準備、(1)譲渡銀行の選定時において、破綻銀行のバランスシートの正確な情報が把握されていること、(2)譲渡金融機関が現れやすい環境の整備がなされていること(ロスシェアの具体的な設定など)、(3)名寄せなどが行なわれていることが最低限必要である。

このようなモニタリング・事前準備が行われてはじめて、早期に破綻処理がスタートでき、破綻から譲渡銀行への移行の時間的なロスもなくなり、「決済機能」を「継続」させることができるが、現在、決して十分な状況にあるとは言えない。

「決済」は企業活動に直結しているだけに、ペイオフ解禁の影響は定期預金などに比べてはるかに大きい。残された課題に比べ、猶予期間は決して長くはない。早急な制度整備が必要である。
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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