コラム
2002年02月04日

問われる雇用対策の質

  末廣 譲凡

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1.失業者の大半を占める構造的失業

雇用問題が深刻化しつつある。わが国の失業率は昨年12月には過去最悪の5.6%となったが、企業活動の低迷などから一段の悪化が懸念されており、当研究所では今年度の失業率を6%台に達すると予測している。
   失業はその発生原因の違いにより2つのタイプに分けることができる。需要不足失業と構造的失業である。需要不足失業とは景気循環による労働需要低迷から発生する失業を指し、景気回復と伴い解消される性質ものである。構造的失業とは技能などのミスマッチにより発生するもので、労働需要そのものはあっても求職者側が企業の求める技能を身につけていない場合に生じる。
   わが国失業率の推移をこのタイプ別に示したのが図表1であるが、現在の失業の大半が構造的なもので占められている。したがって、失業問題の解決には、いかに労働需給のミスマッチを解消し、構造的失業を減らすかという視点が不可欠なものとなる。こうした立場から強調されるのがエンプロイヤビリティ(就業能力)の向上である。エンプロイヤビリティとは労働者自身が企業の求める技能を身につけることによって就業機会・可能性を広げることを意味する。

2.エンプロイヤビリティ向上に挑む欧州

このようなエンプロイヤビリティの向上によって構造的失業問題を解決しようと試みているのがEU 諸国である。EU 諸国では景気拡大期においても手厚い失業給付などを背景に高失業率が続くなど構造的失業問題を抱えていた。他方で、90年代後半には通貨統合に向けた厳格な財政規律の遵守を求められたことから、EUとして雇用政策の転換が図られた。すなわち、失業給付による生活保障といった「消極的雇用政策」から、職業訓練や職業紹介、雇用創出など就業促進型の「積極的雇用政策」が採用されることになる。なかでもエンプロイヤビリティには重きが置かれている。新たな雇用政策を定めたEU Employment Guidelines(97年11月)は雇用戦略の柱としてエンプロイヤビリティを挙げ、加盟各国にこれに沿った雇用政策の実施を義務づけている。
   こうした流れに沿って、各国はエンプロイヤビリティ向上に対する取り組みを強化している。なかでも英国ブレア政権が98年に打ち出した「ニューディール政策」は内外の高い関心を集めた。これは長期失業者に対するエンプロイヤビリティ向上策であり、当初は若年層向けであったが、その後25歳以上の中核年齢層や50歳以上の高齢層にも対象が拡大している。この制度の下では、対象となる失業者は公務員のアドバイザー指導の下、最長4カ月間の就職活動を行う。この期間を経過すると、(1)フルタイムの教育・訓練プログラム(最長12カ月)へ参加、(2)助成金付きの就職(最低週1日は職業訓練)、(3)ボランティア団体での就労、(4)環境保護活動への従事、といういずれかのコースを選択することになる。こうした教育訓練や実際の就労活動を通じてエンプロイヤビリティを高めていくことが期待されている。導入から約3年しか経過しておらず、この政策に対する正確な評価を下すのは難しいが、統計上の数値からは、昨年7月までに約68万人がこのプログラムに参加、32万人が就職したとされ、一定の成果が見られる。

3.今後のわが国雇用対策について

翻って、欧州同様、構造的失業という課題を抱えているわが国の雇用対策はどうか。99年11月に閣議決定された第9次雇用対策基本計画でも今後の雇用対策の重点方針としてエンプロイヤビリティ向上が謳われるなど、エンプロイヤビリティに対する関心は高い。
   しかしながら、実際に行われた雇用政策支出で見る限り、エンプロイヤビリティ向上に向けた充分な対応が図られているとは言い難い。最近における主要国の公的雇用政策支出の内訳をみると、わが国はエンプロイヤビリティ関連の支出額そのものが少ないのに加え、その全体に占める割合も低くなっている(図表2)。
   また、雇用対策に重点をおいた平成13年度第一次補正予算の(総額5,500億円:一般会計ベース)を見ても、雇用創出(3,500億円)や失業手当の拡充(958億円)などが大半を占め、職業訓練関連(59億円)などは少額に止まる。
   今後、構造改革が進む中では、新たな成長分野への労働シフトが必要となるものと思われる。そうした円滑な労働移動を進め、構造的失業を解消する観点から、エンプロイヤビリティ向上に向けた雇用政策の一層の強化が求められる。

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