2001年12月25日

1990年代における雇用管理の変化と女性の企業内キャリア

  武石 恵美子

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1.
1990年代は、日本企業の雇用を特徴づけてきた雇用システムの再編に、企業経営サイドが強い意欲を示した時期であった。内部労働市場が深化しているといわれてきた日本企業において、平均的にみて企業定着の低い女性は、男性と異なる取扱いを受けることが多かった。90年代の雇用システムの再編により企業の雇用管理制度の見直しが行われているとすれば、それが女性の企業内でのキャリアに影響を及ぼすのではないかというのが、本稿の問題意識である。
2.
本研究で「均等度」と呼んだ指標は、92 年から95 年には横ばいないし改善の傾向がみられたが、95年から98年にかけて横ばいないし低下傾向へと後退した。均等度の低下は、企業への入口にあたる「採用」の分野で大きく、均等度の景気感応的な面が強調される結果となった。また、「教育訓練」といった育成の分野でも低下傾向がみられている。企業属性でみると、小規模企業やサービス業で、均等度の低下幅が大きい。その一方で、1000~4999人規模を中心とする大企業や金融・保険業など、これまで内部労働市場が深化していたとみられる分野で低下幅が相対的に小さい。この結果、98年には、均等度の規模間格差が鮮明になっている。
3.
均等度が低下する一方で、「育児支援度」は90年代に上昇し、中小企業でも育児支援策の導入が進んだ。男女雇用機会均等を進める上では、女性の離職を抑止する制度整備は重要であると考えられることから、均等度と育児支援度はパラレルに推移すると予想したが、2つの指標は反対の推移をたどった。この解釈としては、育児休業法に先行して男女雇用機会均等法が施行されたという法整備のタイミングの違い、雇用機会均等に比べて育児支援策は制度導入コストがかかること、雇用機会均等が景気感応的な部分があるのに対して育児支援策はいったん導入されると制度として安定すること、などが考えられる。
4.
男女均等な雇用管理が女性の企業定着に及ぼす影響を分析した結果、均等度が高い分野(産業、規模)で女性の平均勤続年数が長いという関係は、92年、95年には有意ではなかったが、98年には「募集」、「配置」、「教育訓練」における均等度の高さが女性の企業定着に対してプラスの有意な係数を示している。バブル崩壊後の厳しい雇用情勢が続く環境下にあって、なお男女均等な雇用管理を実施する企業の女性活用の取組がより鮮明化した、というのが1つの解釈である。
5.
男女均等な雇用管理が女性の昇進に及ぼす影響を分析した。男女均等な雇用管理は、管理職に占める女性比率にプラスの影響を及ぼしている。これは、92年、95年、98年の各年にほぼ共通してみられた。特に「募集」、「採用」及び「教育訓練」の影響は頑健である。一方、「配置」の分野では、係長への昇進には有意な正の係数となっているが、課長以上の上位の役職においては有意ではない。これは、男女均等な配置により女性のみ配置が少なくなることの影響が考えられる。また、92年、95年には、女性の勤続が長い企業で女性管理職比率が高いという状況にはないが、98年には、女性の勤続の係数が有意にプラスとなり、特に課長以上では係数が安定している。
6.
均等度、女性の企業定着、管理職の女性比率、の三者の関係をみると、98年には、均等度が女性の勤続年数を高めるとともに均等度が女性の管理職昇進を推し進め、さらに均等度とは独立に女性の企業定着と女性の管理職昇進が関連性を強めるという構造になりつつあることが示唆される。
7.
わが国企業では、女性の管理職は極めて少数で推移してきた。それは、内部労働市場の機能が強く、結婚や出産・育児、配偶者の転勤等を理由に中途で退職する傾向の高い女性に対して、管理職へと連なるキャリア形成を積極的に行うインセンティブが企業側には低かったためと考えられる。しかし、上述した均等度、女性の企業定着、管理職の女性比率、の三者の関連性がみられるようになってきたきたことは、長期勤続が管理職昇進に有利であるという内部昇進のルールの基本は維持されつつ、男女均等な雇用管理を進める企業において、女性の企業定着が進み、徐々に内部昇進のルールが女性労働者にも適用されるようになってきた可能性を示すものと考える。ただし、男女均等な雇用管理が女性のキャリアを企業内部化させる効果をもってはいるものの、90年代後半には均等度が全般に低下傾向で推移し、女性のキャリアが内部労働市場において男性と同様に構造化されていく道筋は、未だ不安定といわざるを得ない。男女雇用機会均等を着実に進めることの重要性をあたらめて認識し、法律の定着状況を検討しつつ、男女雇用機会均等な雇用管理に向けた施策展開が求められる。

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