コラム
2001年10月15日

世界同時不況はあるのか?

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.米国経済減速の影響

ITバブルの崩壊で米国経済は昨年末頃から急速に減速している。テロ事件の前からIT 関連の生産が落ち込むとともに、企業の設備投資の減速が起っていた。企業部門の急速な減速の割には個人消費は堅調を保ってきたが、失業率が次第に上昇するなど雇用・所得環境が悪化しており、消費への影響が懸念される状況にあった。
   米国経済減速の影響は世界経済全体に及んでいる。アジアでは97 年の通貨危機後に米国向けの輸出の増加で経済が回復に向かっていた。しかし、米国経済の減速を受けて米国のアジア地域からの輸入も減少し、これらの国々では経済成長率が徐々に減速している。
   もちろん日本も例外ではなく、輸出の鈍化から今年に入ってから鉱工業生産が急速に落ち込んでいる。10月2日に発表された日銀短観(9月調査)でも企業収益の悪化は明らかで、大企業製造業の設備投資計画が大幅に下方修正されるなど、今後の設備投資の減速は避けられない模様だ。失業率はついに5%に達し、消費の回復を期待することは難しい状況にある。
   米国経済減速の影響で景気が悪化している状況は欧州でも同様だ。輸出の鈍化から生産が落ち込み、設備投資の冷え込みを招いている。企業部門の調整に比べれば消費はまだ堅調だが、雇用環境の悪化などから、次第に減速してきている。

2.テロ事件の影響

米国経済が減速する中で今回の同時多発テロ事件が発生した。テロ事件の影響そのものが米国経済に一時的に悪影響を及ぼすのは避けられない。日本の例を見ても、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件などの社会不安が消費を落ち込ませるのは確かだ。しかし、95年1月の阪神淡路大震災では1月の鉱工業生産は落ち込んだものの、2月にはほぼ元の水準に戻っているなど企業の対応は意外に迅速で、生産面に与える影響は小さかった。今回のテロ事件でも物的な被害が大規模で、金融システムに大きな影響が出るのではないかと懸念されたが、意外に立ち直りは早かったといえるだろう。
   消費者心理に与える影響は避けられないが、湾岸戦争時の動向をみても戦争が短期で終結すれば、その後は消費は急速に回復している。テロ事件そのものや武力行使の影響は短期的に米国経済を下押しし景気の回復時期を遅らせるが、それほど深刻なものではないだろう。問題は米国経済がもともと抱えていた、「株価の下落による逆資産効果で景気低迷が長期化する」というリスクを今回の事件がより大きくしたことだ。

3.世界同時不況?

米国経済の減速に今回のテロ事件やそれに引き続く武力行使で、今後世界同時不況に突入するのではないかという議論が巻き起こっている。「不況」という言葉をどう定義するかにもよるが、ある意味でテロ事件が起る前から、世界経済は同時不況の様相を呈していた。問題は「世界同時不況が起るか」ではなく、「どの程度の不況が起るのか」ということではないか。今回の事件が早期に終結すれば良いが、そうでなければ不況が深刻化するリスクは高まる。
   1980年代以降、世界経済は米国の経常収支の赤字拡大が持続可能でなくドルの急落などによる急激な調整がいずれ必要となることを懸念しながらも、米国が貿易赤字を拡大して輸入を増加させることに依存して成長してきた。特に最近はこの傾向が顕著だ。米国経済が減速する中で、日本経済もアジア経済も自力で景気回復の糸口を見付け出すことは難しそうだ。米国経済に匹敵する規模の統一市場を作り出した欧州経済ですら、米国景気の立ち直りなしで自力で景気回復が可能かどうか懸念される状況にある。円安による輸出増加で日本経済を立て直そうという意見もあるが、果たして本質的解決に繋がるのだろうか?同時不況の様相を呈する世界経済は、「米国への輸出に依存せずにどうやって経済を立て直すのか」、という各国共通の課題を我々に提示しているように思う。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

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