コラム
2001年08月20日

前年度比で初めて減少した家計金融資産残高

石川 達哉

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1.減少に転じた2000年度の家計金融資産残高

日本銀行が先般発表した「資金循環勘定」によると、2000 年度末の家計金融資産残高は前年度より4兆円少ない1386兆円にとどまった。家計の金融資産残高が前年度比で減少したのは統計調査開始以来はじめてのことである。フローの家計貯蓄額は年々30兆円以上も新たに生み出されており、金融資産残高は順調に増えていくと見方が一般的であっただけに、この統計報道には驚かれた方も多いのではないだろうか。
家計部門の金融資産残高と負債残高
負債を控除した「純金融資産残高」でみても、2000年度は996兆円と前年より1兆円減少している。実は、「純金融資産残高の対前年増加額=当年中の資金余剰+キャピタル・ゲイン/ロス」という関係が成り立っており、残高減少の要因分解が統計的に可能である。金融資産残高減少の最大の要因は年度末に生じた株価下落であり、23兆円のキャピタル・ロスが発生した。もうひとつの要因は、資金余剰額が平年より15兆円も小さい21兆円にとどまったことである。そのために、キャピタル・ロスを吸収しきれず、ストックの減少をもたらしたのである。
純金融資産残高増加額(対前年)の要因分解

2.土地取得の増加で縮小する家計の資金余剰

家計部門の資金余剰額とは、フローの貯蓄額から住宅や土地など実物資産の取得額を控除した収支尻に相当する。フローの貯蓄額は、可処分所得のうち消費に当てられなかった残余である。2000年度の資金余剰幅の大幅縮小に関して、直接の内訳を示す統計数値はまだ公表されていないが、要因的には、貯蓄が減少したか、実物資産への投資が増大したかのいずれかである。

所得・消費ともに伸び悩んでいる状況から判断すると、貯蓄側が大きく変動したとは考えにくい。つまり、実物資産への投資の増大が原因ということになる。しかし、住宅投資も好調とは言い難いから、土地の取得増大に原因を求めることができる。

実は、近年の土地取引に関しては、家計部門だけでなく、企業部門も含めて、大きな構造変化が生じている。

まず、過去50年間の農地・住宅地・商業地の面積の推移を見ると、農地が減り、住宅地・商業地が増えるという状況が続いている。農家が供給した土地をサラリーマン世帯や企業が取得するいうのがこれまでの基本的な構図である。部門別に見ると、商業地として土地を利用する企業は、永らく取得超過部門であった。農家とサラリーマン等の世帯を合わせた家計部門全体に関しては、土地の取得額より売却額の方が多かった。
部門間の土地取引(名目GDP比)
しかし、90年代になって企業がリストラを進める中で土地の取得額を縮小し、遂には差し引きで土地の売却側に回ってしまったのである。一方、家計部門は99 暦年には取得超過部門に転じている。企業が売却した分は最終的にはサラリーマン世帯などの住宅地として購入されたことになる。住宅投資は横這いだから、土地を持っていない世帯の住宅・家屋と土地の取得が増え、土地を持っている世帯の住宅投資は減ったとものと考えられる。地価の下落によって住宅・家屋に対する土地の相対価格が下がり、家屋の取得に比べて土地の取得が相対的に進んだと言うこともできる。

土地の固定資産税に関する税務統計を見ると、個人納税者数が増加を続けるなかで、法人納税者数は2000年に減少に転じている。したがって、土地取引でも家計部門の購入超過が続いていると推測される。そして、それが家計部門の資金余剰を減らす要因として働いているはずである。

このように、家計部門の金融資産残高減少の背後には、実物資産取得の増加があり、企業部門を含めた土地取引の構造変化があることを見落としてはならないだろう。
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