コラム
2001年04月27日

2001年度もデフレは続く?

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1.量的金融緩和策が実施される

今年に入り、日本銀行は矢継ぎ早に金融緩和策を実行している。2月には無担保コールレートの誘導水準を0.15%とし、公定歩合を0.5%から0.25%に引き下げた。これに続き3月には、政策ターゲットを「無担保コールレート」という「金利」から「当座預金残高」という「量」とする量的金融緩和政策を実施した。

その際、量的金融緩和は「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続することとする」というコミットメントが示された。消費者物価指数は、バブル崩壊後一貫して低下し、96 年にマイナスになっている。97 年に消費税率の引き上げで一旦ゼロを上回ることとなったが、98 年以降はマイナスが続き、「デフレ」が継続している。足元では、マイナス幅が更に拡大している。

日本経済復活に向けて、デフレからの脱却が望まれている。思い切った金融緩和策によりマネーサプライの増加を通じて物価上昇に波及することが期待されるが、「デフレ」脱却は達成できるのだろうか?
消費者物価指数の推移~98年からデフレ状況が続く

2.物価動向に影響を与える要因~デフレ継続の可能性が高い

物価はいろいろな要因に影響を受け変動するが、大まかな方向を予想するには、(1)景気の局面が回復・後退のどちらなのか、(2)人々が将来の物価に対してどのような期待を抱いているのか、(3)国内物価に波及するような外生的ショック(石油価格や為替レートの変動)が考えられないか、などを検討することが重要となる。

一般に景気が良くなると、供給よりも需要が多くなり物の価格が上がり、逆に景気が後退局面になると物が売れないなど需要よりも供給が多くなってしまい物の価格が下がる。

4月2日発表の短観で示されたように日本の景況感は急速に悪化している。生産などの統計からは昨年夏場が景気のピークだったと判断され、日本経済は後退局面にあるようだ。景気要因からは今後しばらく物価の下押し圧力が続くようである。

人々が高いインフレが続くと考えている場合、後で物を購入するよりも現在購入した方が安いと思うだろう。そうなれば、現在購入を急ぎ、実際のインフレ率も高くなりやすい。つまり人々の将来見通しが現在の物価に大きく影響するのである。サーベイ調査で人々が将来物価をどのように予測しているのかを見ると、99 年に入り「高くなる」と予測する人々の割合が急激に低下している。自己実現的予測が成立するとすれば「物価上昇」ではなく「物価下落」が今後おこることとなる。
人々の物価上昇期待も大きく低下
石油価格や為替レートの変動による外生的ショックにより、輸入物価を通じて国内物価に波及することが度々経験されてきた。しかし米国やアジア経済の鈍化が明確になってきており、石油需要は低下すると考えられ、今後石油価格が高騰するとは予想しくにい。また為替レートも円安牽制の発言もあり急激な円安に振れることも考えにくい。さらに90 年代に入って、海外直接投資の進展や海外現地生産化が進められ、安価な製品が輸入されるようになり、輸入品との競合から恒常的な「物価下落圧力」の存在もあり、外的ショックによって国内物価が上昇するということも考えにくい状況にある。

物価に影響を与えると思われる要因を検討すると、どれも物価上昇へ影響すると考えるよりは、むしろ物価の下押しとして働いてしまうと判断される。どうもデフレはしばらく続きそうである。

3.日銀の2001 年度見通しもデフレを予

4月26 日に日本銀行は、「経済・物価の将来展望とリスク評価」を公表し、2001 年度の日銀の経済予測を提示した。それによると、実質GDP は+0.3~+0.8%、消費者物価(除く生鮮食品)は▲0.8~▲0.4%と今年度も物価が安定的にゼロを上回る状況にはならないとしている。

大々的な金融緩和策が取られているが、構造問題を抱えるている上に、米国経済の不調などが重なり、なかなか景気刺激にはつながっていない。しばらくデフレ状況は続き、量的金融緩和策の長期化の可能性が高い。
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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