2000年12月01日

株式交換制度と少数株主の保護

小本 恵照

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●関係会社の少数株主の排除が利用の中心
昨年10月に株式交換制度が施行されて1年が経過した。株式交換制度は、親会社となる会社(A社)と子会社となる会社(B 社)の株主が、新規に発行されるA社株式とB社株主が所有する株式を交換する手続を定めるものである。株主総会の特別決議をはじめとする一連の手続きを経ると、B社の株主全員はA社株式との交換を強制され、B社はA 社の100%子会社となる。
これまでの利用をみると、エスアールエルによる住友金属バイオサイエンスのように企業買収の手段として利用した事例もあるが、ソニーが上場会社3子会社を完全子会社化するために実施したように、親会社が関係会社の少数株主を排除するために主として利用されているようだ。これまでに実施された上場企業間の事例をみると、子会社化された(る)25社のうち、関係会社が23社を占め、そのうち子会社が12社、2/3以上の株式所有比率の子会社が9社に上っている。


●公正な交換比率が重要
親会社と関係会社が株式交換する際に問題となる点は、親会社が株式交換契約における双方の当事者となることである。親会社が関係会社の決議を制するに足る株式数を所有している場合には、自分にとって有利な(=関係会社の少数株主にとって不利な)条件で株式交換が実行できるためである。
商法は、このようなケースで少数株主が不利益を被る場合には、合併の場合と同様に、株式交換に反対の株主に対して株式買取請求権を認めるとともに、株式総会決議の取消しや株式交換無効の訴えといった制度を設けている。
これら救済手段が一定の効果を持つことはもちろん否定できない。しかし、株式買取請求権を行使するには、株主総会に先立つ反対意思の通知、会社との協議、協議不調の場合には裁判所への申請などが必要である。また、株式総会決議の取消しや株式交換無効の訴えを行うにはそれなりの手続が必要である。所有株数がわずかな個人株主などにとってみれば、こうしたコストは無視できないものと思われる。
このような点を踏まえると、少数株主が不利益とならないような制度の運用が強く求められる。かりに、少数株主の利益が損なわれるような事例が多発するならば、それを防止するための新たな措置も考慮されるべきではなかろうか。少数株主の利益が損わねる可能性が高いことが投資家に認識されてしまうと、子会社株式を公開する場合に、投資家は公開後の不利を予測し公開株式の取得を躊躇うなど、効率的な資金配分の点からも問題が生じるためである。


●これまでは少数株主に配慮した事例が多い
これまで実施された関係会社に関する事例について、交換比率を交換発表前日の当事会社の株価比率と比べることによって、少数株主に対する配慮状況を調べてみた。それによると、23事例中、前日の時価に基づく株価比率が交換比率を下回るものは7事例に止まり、そのうち10%以上下回るものは3事例に過ぎない。この結果をみる限り、これまでのところ、かなり少数株主を考慮した株式交換が行われているといえる。
経済環境が急激に変化する中で、株式交換の利用はますます活発化すると考えられる。今後とも、少数株主の保護が十分なされているかどうかを注視していく必要性は大きいと考えられる。

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