2000年09月01日

縮小する地域間の所得格差

石川 達哉

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昭和初期の東京都の所得は全国平均の2.90倍、現在は1.36倍
本格的な高齢化社会の到来を前にして、国土と地域の調和ある発展という観点から、地方の成長可能性や地域間所得格差に対する関心が高まりつつある。今後の高齢化や人口減少による影響が深刻なのは地方圏だと言われているが、生活水準に直結するのは1人当たり所得であり、重要なのは地域別の1人当たり所得やその格差が長期的にどのように推移するかであろう。
この点に関して、過去70年間の統計はきわめて意外な事実を示している。地域間の所得格差は長期的に縮小傾向を続けているのである。所得格差は過去の方がはるかに大きかったのである。
例えば、昭和初期の1930年における1人当たり所得は、全国平均が183円であったのに対して、東京都のそれは530円と実に2.90倍もあった。戦中、終戦直後の混乱期を経て、1955年には全国平均8.1万円、東京都12.6万円と格差は1.55倍にまで低下した。後述のとおり、倍率でみた格差の縮小は等比級数的に進行し、格差が小さくなると縮小幅も低下している。このため、事実が見落とされやすいが、格差縮小はその後も着実に進んでいる。その結果、1997年(直近統計値)においては、全国平均319万円に対して、東京都は1.36倍の434万円となっている。
しかも、格差縮小は所得の最も高い東京都とその他の府県との間のみに当てはまる現象ではない。47都道府県の所得のバラツキ(標準偏差÷平均)が長期的に低下しているのだ。特に、「就業者1人当たりの実質生産」でみると、80年代後半のバブル期などを除けば、ほぼ継続的に格差縮小が起こっている。こうした収斂現象が生じたのは、当初の所得水準(1人当たりの実質生産)が低い県ほどその後の成長率が高かったからにほかならない。
1960年代の高度経済成長期には大都市圏への人口集中と過疎・過密問題が生じたが、1人当たり所得の成長率について言えば、地方圏が都市圏を上回る伸びを実現していたのである。この点は、今後の人口減少期を考えるうえで、大きな意味がある。それは、人口減少下でも1人当たりの経済成長が可能であるというだけでなく、地域間所得格差も縮小し得るという点である。

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