2000年07月25日

若年層の失業構造 -高失業率の要因とその背景-

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.
雇用情勢が依然として厳しい中、特に若年層の失業率の高さが目立っている。15~24歳の99年の失業率は9.1%であったが、そのうち景気の悪化に伴う「需要不足失業率」は2.3%、労働市場の構造的な問題によって生じる「構造失業率」は6.8%と推計される。若年失業者の約8割が構造的な失業と考えられ、その割合が全体に比べて高くなっている。
2.
若年層の「構造失業率」を押し上げている要因のひとつに転職率の高さが挙げられる。転職がスムーズに行われていれば失業率は高くならないが、実際にはいったん会社を辞めた後の再就職率はかならずしも高くない。そのため、若年層の離職率の高さは失業頻度の高さにもつながっている。若年層の失業継続期間は他の年齢層に比べて短いが、失業頻度が非常に高いためにストックとしての失業者が増加し、失業率も高くなっているのである。
3.
失業頻度の高さにつながる若年層の活発な転職行動の背景には、転職コストの縮小がある。転職により賃金水準は低下することが多いが、その低下幅は近年縮小傾向にある。転職によるコストが小さくなることは、若年労働者の転職に対するインセンティブを高めるひとつの要因になっていると考えられる。
4.
転職できずに失業した場合でも、若年層の場合は、親をはじめとする他の同居人の所得によりその生活が支えられている部分が大きい。若年失業者が属する世帯の所得水準は、同じ年齢階級の賃金水準の約3倍と高くなっている。若年層は世帯主の割合が低いため、たとえ失業したとしても同居している世帯主の所得などにより、世帯全体の所得でみれば比較的高水準に保たれており、このことがいわばセイフティネットの役割を果たしていると考えられる。近年、未婚化、晩婚化の進展とともに「親と同居する未婚者」の割合が増えていることが、この傾向に拍車をかけている。このような世帯構造の特徴、変化は、若年失業者の生活を下支えしているという働きをしているが、その一方で若年が失業しやすい状況をつくり出しているともいえる。
5.
若年層の失業は構造要因による部分が大きいため、景気回復が続いても失業率が他の年齢層ほど下がらない可能性が高い。若年層の高失業率による問題は今のところあまり顕在化していないが、このまま放置しておけば将来的には日本経済の長期停滞に陥るなどの深刻な影響を及ぼす可能性があり、軽視すべき問題ではない。

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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