2000年03月25日

都市再生事業の新たな展開 -成否を決める市場メカニズムとパートナーシップの適切な導入-

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

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1.
本論では米国の事例を中心に、都市再生事業における関係者間のパートナーシップのあり方及び事業資金の調達手法を調べ、日本における新たな事業展開の方向について考察した。パートナーシップについては、最近、米国でNPOとの関係が急速に高まっていることから、本論でも彼らの関わり方に着目している。さらに、筆者は都市再生事業の内容に応じた適切なパートナーシップの構築が、結果的には市場からの投資資金の導入を容易にすると考えており、このような観点から、複数の事業事例について検討を行った。
2.
度重なる景気対策は、国と地方の財政事情を深刻な状況に追いやった。このため規模の大きな都市再生事業を財政資金によって実施することは従来よりも難しくなっている。日本の都市再生事業の主体は地方公共団体であるが、最大の財政規模を持つ東京都でも大幅な予算削減を行わざるを得なくなった。地方公共団体の期待は都市基盤整備公団、金融公庫資金、地方振興整備公団、民間都市開発推進機構などに注がれているが、いずれも財投改革の影響や財務内容改善の課題を抱えており、事業着手と資金投下は慎重にならざるを得まい。
3.
米国でも財政資金の効率的利用が大きな課題となっている。公営住宅再生事業に供与する補助金を最も有効に活用させるため、住宅都市開発省(HUD)は各地の住宅公社を競合させる方針をとっている。しかも、補助金供与の審査条件として、当該補助金を梃子にした民間資金の導入策を提示するようHUDは公社に義務付けている。ニューアーク住宅公社(NHA)による公営住宅再生事業Stella Wright Homeの場合、当該事業の一部にNCC(※1)などの大手非営利組織(NPO)が側面から参画することによって、3,500万ドルの補助金供与が認められた。
(※1) NCC: New Community Corporation
4.
ニューヨーク市、住宅保存開発局(HPD)の事業プログラムには、当初から大手NPOであるLISC(※2)やNYCHP(※3)がHPDのパートナーとして組み込まれている。HPDはこれらパートナーの資金を活用し、CDCs(※4)に公営住宅の運営を引き継がせる事業や、ハーレム地域において1億ドル強の商業施設やコンドミニアム開発事業等を実現させ、荒廃した地域を再生させようとしている。パートナーにとってもNPOとしての社会的使命を実現していくためには、許認可権を持つ公共部門とのパートナーシップ構築が望ましい。
(※2) LISC: Local Initiative Support Corporation、(※3) NYCHP: New York City Housing Partnership
(※4) Community Development Corporations
5.
ボストンではBRA(※5)が数多くの再開発事業や都市再生事業を実施してきた。BRAの資産規模は小さいが、ボストン市全域の都市計画に責任と許認可権を有し、同市で最長の事業経験を持つ。この点は、国際コンベンション・センター事業資金の市を通じた起債による調達時においても、業務を確実に遂行しうるという観点から投資家に評価されている。また、ワシントン・ストリート再生事業では、公的機関であるBRAが、再生事業を行う民間ディベロッパーに対し先行して融資を行ったことによって、民間融資が沿道の再生事業に継続的に投下されるきっかけを生んだ。BRAは、自ら将来の街並み形成を担保し、場合によっては民間ディベロッパーに替わって自らの力で事業を推進する能力を持つ。それだけに、完成しなければ収益を生まない開発型事業や都市再生事業等に参加する民間パートナーや投資家等にとって、その存在は、着工時点で完成が保証されていることに等しい効果を持つ。
(※5) BRA: Boston Redevelopment Authority
6.
これらの米国の事例から判断すると、日本では公団や民都機構など(公団等)がBRAと類似した存在である。しかし、事業や土地利用変換のための許認可権は地方公共団体が持つ。公団等は国と一体的であるためBRAのように公共間の調整は比較的容易に行えるが、地方公共団体ほど地元コミュニティーとの関係は緊密とは言えない。米国で一段と存在感を高めているNPO組織、特に都市再生事業の分野で税額控除制度を活用し、事業資金を確保するCDCsと類似した事業主体も日本にはない。民間企業や機関投資家が都市再生事業に投資するには、明確な投資メリットが必要である。
7.
このような条件のもとで、十分な投資資金を集めて都市再生事業を推進するためには、(1)地方公共団体の要請によって、(2)公団等が地方公共団体とパートナーシップを組み、(3)BRAのように外部的には再生事業のためのすべての権限を有する統一的主体を形成することによって事業の完成を担保する。完成への確信を与えることによって、(4)民間あるいは制度金融による投融資資金を誘導し、(5)事業を完成させる。もし(6)事業の公共性が高く利回りが低いようであれば、パートナーシップ関係にある地方公共団体と公団等は、民間投資家の期待する投資利回りが達成できるように、財政資金や補助金等を無配当のエクィティーや梃子の資金として準備し、(7)民間による長期投資資金を誘導し事業からexitする-といったスキームが考えられる。
8.
この方式はいわば適切なパートナーシップの下、市場メカニズムに基づいて民間投資資金を未完成の都市再生事業に導く手段であり、特定目的会社などを用いた証券化スキームとして実現する可能性は高い。今後は、都市再生事業における財政資金の効率的な活用が、納税者である国民あるいは住民の目からも必須条件となるはずであり、事業に携わる者は、このような事業手段の導入と実現策を真剣に考えていく必要がある。

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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

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