2000年03月01日

急がれる非製造部門の専門人材強化

窪谷 治

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1.
早くから国際展開を図ってきたエレクトロニクス、自動車、機械等の加工組立型製造業は、わが国の伝統的な組織や人事システムにいち早く改革を加えながら、国際的に通用するシステムを構築し、プロフェッショナルを育成してきた。このことが生産性向上や競争力強化に果たした役割は大きい。
2.
加工組立型のグローバル企業は、90年代以降も専門職制度、多面的評価制度、国際人事制度など積極的な人事改革を進めているが、そこには、21世紀の高収益企業を目指すためには人事・処遇制度改革を避けて通れないという経営者の強い共通認識がある。
3.
このような加工組立型製造業に比較すると、わが国の非製造業セクターでは様々な競争制限的な保護政策がとられてきたため、国際化は大きく遅れ、専門人材も充分育っていない。ところが、90年代の規制緩和の進展で、壁の取り払われた日本市場へ金融、情報サービス、通信など非製造セクターの海外有力ビジネスの進出が活発化している。これは、わが国にとって新たな国際化の始まりである。
4.
非製造業は人的資源への依存度が高く、競争力強化のためには企業収益に直結する専門人材の育成、確保が不可欠となる。欧米では情報サービスやプロフェッショナルサービス、金融サービス、医療など生産性の高い非製造業が経済を牽引している。わが国でも、経済のサービス化が進展するなか、国際的に劣位にある非製造業の専門人材育成は、製造業以上に重要なテーマであることを認識すべきである。
5.
なかでも、長年にわたって規制下にあった金融機関ではゼネラリスト育成に主眼がおかれ、専門人材の育成が遅れた。しかしながら、邦銀の経営破綻や「日本版金融ビッグバン」により、金融分野も他業態や外資系を巻き込んだサバイバル競争に突入してきており、競争に打ち勝つ専門人材の強化が喫緊の課題になってきている。わが国の金融機関が直面するコスト競争、運用力競争、リテール業務の強化、コンサルティング能力の強化といった課題の解決には、専門的な人材の確保が大きな鍵を握っている。
6.
最近になって、専門人材の中途採用が活発化しているが、専門人材確保には、それを評価する専門的なチームの組成が求められる。直接業務に携わる専門性の高いメンバーの他に、人材価値を客観的に評価するために社外のコンサルティング機関等を加えることも検討すべきであろう。そして、各人材が獲得した収益を最大の評価基準とする明確な評価基準の策定と開示が不可欠である。
7.
さらに、人材の専門性を最大限に活用するためには、組織や職種別採用・評価体系を構築する必要が出てくる。しかしながら、事業本部制等の組織形態をとったとしても、同一企業内に多様な評価体系を併立させることは現実的に難しく、最終的に指向すべき体制は業務分野ごとの別会社化であろう。このように、金融機関をはじめとする非製造セクターの専門人材育成には、現状否定型の思い切った改革の断行が求められる。

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窪谷 治

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