2000年03月01日

専門人材を育む企業のマネジメントシステム -金融機関におけるナレッジの持続的創造に向けて-

小豆川 裕子

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1.
規制緩和、情報化の進展、経済のグローバル化など激変する環境下で、企業は優秀な専門人材をできるだけ競争企業に奪われることのないよう、一層、求心力と柔軟性を併せ持つことが必要となっている。その際とりわけ企業に求められているのは、組織と個人の関係性を強めるのは期間の長さではなく、その時々の双方の目標の一致したところに取引や魅力の源泉があり、いつでも契約解消可能なオープンな関係性のなかで、個人がなぜその組織に所属し、なぜそこにいれば心地よいのか、という問いかけへの答を徹底して追及していくことであろう。
2.
こうした問題意識から本稿では、専門人材を育む企業システムの方向性を、専門人材の直接的環境(ミドルマネジメントや組織文化)、配置・異動、教育訓練、評価・報酬などの雇用管理システム、モチベーションやIT進展と個人の情報活用能力(情報ハンドリング力)、さらにナレッジ・マネジメント、などの要因に着目して分析を行った結果の一部を紹介する。
3.
企業組織においては現在、個人の自律化、プロフェッショナル化、あるいは、IT進展や組織の統廃合によるフラット化などによって、中間管理職の存在や役割・機能が問われている。分析結果によると、専門人材を育む企業システムのなかで、ミドルマネージャーの果たす役割は大きく、このマネジメント力が専門性の満足度や専門性強化に多大な影響を与えることがわかった。そして、多彩な個性あふれる人材を活かす「チーム運営力」や「組織活性化力」、「情報力」を持ったミドルマネージャーに対する専門人材の満足度は高い。
4.
また、専門人材の職務満足度を高める組織文化の特徴としては、独創性や多様性が尊重され、専門人材が重要視されている『創造性支援組織』、仕事のプロセスが明確化され、トップとの経営ビジョンが共有されている『信頼醸成組織』が浮かび上がっている。
5.
組織と専門人材の関係性に着目し、日系企業について、「専門性」の自己評価が高く、会社からの評価の高い関係(専門性の統合:H-Hモデル)を規定する要因を検討すると、ミドルマネージャーに対する満足度の高さ、ITを利用したナレッジ・データベースの活用度の高さ、職務全般の満足度の高さがあげられた。一方、報酬・評価制度の満足度や職務異動可能性(ローテーションの可能性)は「専門性の統合」を低めていることから、現時点では専門人材の育成・活用の観点から、処遇制度や異動管理において課題があることが示唆された。
6.
専門人材を育む組織のあり方として報酬制度、評価制度の整備はもとより重要ではあるが、専門人材にとっては、仕事を通した成長感や動機づけを高めるようなシステム、専門性強化に資する教育訓練制度やナレッジ・マネジメント、さらに、個人の創造性や独創性を支援し、コミュニケーションの明確化や透明度を高めることによって、組織と個人の信頼関係が醸成されていくような組織文化の創造が求められている。

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小豆川 裕子

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