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- 金融業における専門人材のキャリア管理
1.
金融機関を取り巻く経営環境はかつてないほど多様かつ急激に変化しており、この変化に即応しうる人材をどのように調達し、また育成するかは、企業の経営戦略の根幹にもかかわる経営課題となっている。金融機関の専門人材確保へのニーズは高く、専門人材を内部で育成しようとする企業は多い。人材の調達方式の違いは、その後のキャリア管理の仕組みに影響を及ぼしており、外部調達型の企業では、職種や部門別の採用・処遇体系をもっている企業も多く、成果を個人の報酬に反映させる仕組みを備えている。一方内部育成型の企業では、職種別のキャリア管理や成果主義を貫くことが難しく、ゼネラリスト育成とスペシャリスト育成を分離していない状況にある。また、専門人材の必要性を認識しつつも、そうした人材に対して特別な処遇体系をもつことについては時期尚早との感触ももっている。
2.
専門人材のキャリアの幅は、必ずしも単一業務に特化したものではなく、複数の業務経験者が多い。ただし、その中でも一つの業務経験年数が職業キャリアの3分の2程度を占め、複数の業務を経験しながらも、特定業務のキャリアを深めている状況がうかがえる。単一業務の経験者よりも複数業務をしている方が、またその中で特定業務のキャリアの深さが深い方が、自己の専門性への自信は高い。
3.
転職経験者の専門性への自信度は高く、転職により年収が増加する傾向がみられ、外部市場における評価を受けた経験が自信度にプラスに作用していることが考えられる。しかし、企業の中で成果を正当に評価し報酬に結び付ける仕組みがあれば、人材の自信や満足を高めることが示唆されており、外部労働市場の優位性というよりは、企業内においても専門人材の評価システム、それを報酬とリンクさせる仕組みの重要性が指摘できよう。
4.
専門性獲得にあたっては、業務経験や上司の指導等のOJTが効果的と考えられており、企業内部での育成の重要性を示している。教育・訓練に関しては、専門人材の必要性を社内で認知し、体系的に対応することが重要なポイントとなっているのと同時に、社外にも目を向けたネットワークの支援や、自己啓発の重要性も指摘できる。
5.
日系金融機関では、職種構成、学歴等の労働者構成の同質性が他産業に比べて高く、こうした労働力構成を背景に、差をつけない平等主義・画一主義がキャリア管理の底流にあった。しかし、このような育成方式が、専門性の高いスペシャリストには適合していない面もある。格差を容認しつつ、成果を報酬に反映し、コアとなる専門性をもてるような育成が、専門人材のキャリア管理には重要である。社内における専門人材の位置づけを明確にした上で、平等・画一主義を脱した処遇のあり方を検討する必要がある。
武石 恵美子
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