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1.
専門人材の定義は確立されていないが、民間企業における専門人材は、学術的な専門性の高さよりも、収益面等で具体的なメリットをもたらす専門性を有していることという見解が支配的である。また、専門人材は特定の企業にのみ通用する特有のものではなく、企業の枠組みを超えて通用する専門性としてとらえるべきものであるといえる。
2.
これまでの日本企業では、人材を組織的に活用することによって高いパフォーマンスをあげる戦略に重点がおかれてきた。しかしながら、昨今の急激な環境変化は、組織よりも個々人の能力の高さが企業収益を大きく左右する競争社会を形成しつつある。
3.
とりわけ90年代になって、(1)様々なグローバルスタンダードの導入、(2)外国企業の日本進出の活発化、(3)著しい情報化の進展、(4)国際取引の複雑化、(5)資産運用のバーダレス化、(6)企業経営の効率化指向、(7)国際的枠組みの変貌、といった環境変化が進んだ。こうした環境変化に対応して、国際的な競争を勝ち抜いて行くためには、これまで日本企業が重点を置いてこなかった専門人材の育成が急務となっている。
4.
わが国で専門人材が十分に育たなかった背景には様々なものが考えられる。(1)組織重視型の経営とそれに沿った人事・教育システム、(2)規制に守られ競争原理が働かなかった産業特性、(3)終身雇用を前提にした制度や慣行、(4)同一性が重視される社会システム、(5)実践教育が不足している学校教育、(6)ユニークな発想を避ける個人意識、などがそれである。
5.
90年代半ばあたりから人材の流動化が加速し始めている背景には、専門人材に対するニーズの高まりという要因の他に、景気低迷の長期化による雇用調整圧力の高まり、金融機関の経営破綻等による人材の流出と外資の進出、雇用関連の規制緩和の進展といった環境変化も大きな影響を与えている。一方で、企業の中途採用も専門性を重視した「質」の確保へと変化してきているが、中途採用のマーケットの未整備などから、企業が求める人材が必ずしも流動化していないのが現状であり、雇用のミスマッチが生じている。
6.
専門人材へのニーズを高める企業にとって、専門人材を受け入れ、処遇するシステムの構築が急務となっている。90年代半ば以降、専門職制度や年俸制、裁量労働の導入など、新たな取り組みが本格化しているものの、これまでのところ、人件費コストの抑制という色彩が強く、専門人材を育成、管理する視点が確立しているとはいえない。なかでも十分な競争原理が働いてこなかった金融をはじめとする非製造セクターでは、専門人材の育成面での課題が山積している。
窪谷 治
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