1999年09月25日

内外価格差をどうするか

細見 卓

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日米貿易摩擦が深刻であった頃には、内外価格差の大きさやその広範さが国内外の関心の的であり、その縮小ないし克服が日本経済の最大の問題として扱われてきた。しかしここ数年、日本の貿易黒字の推移が安定的であったこと、また米国経済が好調であったために、日本経済のもつ二重価格構造的なものも大きな非難の対象となることもなく、暫らくは世間の注目を引かなかった。 しかしその間、内外価格差問題への対策がとられなかったために、再び日本の通信・運輸・流通などの分野で割高さとそれに対する保護政策に対し日米間の主要な経済問題になる傾向が見えてきた。


規制・保護の影響で残る内外価格差
消費物資や日常品においては、格別の対策をしなくとも、市場経済化の推進によって自然と解消に向かったようであるが、通信・運輸・流通分野の内外価格差は、日本経済の構造と規制措置に深く根差しており、その改善は容易ではなくなっている。また、WTOの強化・拡充が世界経済の最大の問題となるに連れて、日本のこれら分野における保護的・隔離的な政策が、見逃されて行くことももはや困難となった。
日本の工業生産が著しい成功を収め、その産業競争力は格段の改善をみてきたが、これらの成功は日本の経済政策が製造業中心の輸出政策に集中してきたことの現われであった。一方、農業、通信、運輸、流通などの分野での生産性向上は、製造業に比して劣ってきた。そうした分野においては、政府のもろもろの規制や保護政策が残り、見劣りのする規制産業に堕してしまっている。
例えば、農業については、かなり厳しい輸入制限と保護政策をとってきたがために、今日もなお食糧の内外価格差は著しいものになっている。このことについては、日本の当局も無関心であった訳でなく、農業の生産性向上や自由化に向けて、それなりの努力をしてきたことは認められる。しかし、そうした保護されている産業には、競争原理がうまく浸透せずに、更には保護を求める産業や既成勢力の声がますます大きくなって、保護や規制の撤廃は非常に困難となっている。
日本では、前川委員会以来一貫して市場経済あるいはグローバリズムの方向へ努力しようとした跡は認められるが、今日客観的に見て大きな改善がなされたとはいえない。また橋本内閣以降も、官庁の縄張りといったものを大幅に変更することを内外に約し、規制緩和の政策が主要眼目とされてきているが、規制撤廃を求める努力はいわば声なき声であり、国内の規制を温存し、保護を享受しようとする力は、それが必死であるだけにいよいよ大きなものとなっている。これが今日、内外価格差が大きく残存している根本的背景である。


徹底的規制緩和・内外一体化が競争力ある発展に不可欠
新生EUの発展、米国経済の一極繁栄的様相を前にして、日本はこの内外価格差の克服、ひいては日本市場の全面的開放という答えをもってしなければ、世界経済の主要国としての地位を全うすることはできそうにない。
もちろん米国にも、EUにも保護主義的な声を上げる部門が今なお数多く存在していることも事実であり、こうしたことは世界共通の現象でもある。しかし、エネルギーや食糧の自給すら困難な日本にとっては、通商国家として世界に受け容れられなければ、日本経済の孤立化は避けられず、東南アジアの経済の活性化に日本が役立つことも不可能となる。
また、内外価格差の存在は、安く物を売って高いものを消費することであり、国民経済の福祉を大きく傷つけることは当然である。このように日本経済の福祉向上のためにも、内外価格差を撲滅していくことは不可欠であり、また、劣後する旧産業に代えて新たに産業を興し、万遍なく経済繁栄していくためには避けられない唯一の道である。そのことを推進しなければ、世界経済において日本が実質的繁栄を維持していくことも困難である。
内外物資の価格差といった程度のことであった頃には、さしたる大きな影響もなかったように見えるが、通信、運輸、流通というような産業の根幹にかかる分野で内外価格差が残っているということは、日本経済の競争力のある発展には非常に有害なことである。そうした分野での徹底的規制緩和、内外一体化を推進することの重要性は、かつて内外価格差の非を声高に非難された頃よりも切実になってきたことを知らねばなるまい。

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