1999年09月25日

世代別にみた個人の生涯税・社会保険料負担と年金給付 -99年度年金制度改正法案を踏まえて-

石川 達哉

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1.
過去50年間の所得税・住民税と社会保険料負担の賃金に対する割合を平均的所得層について比較すると、1957年以降は社会保険料負担が上回り、80年代後半からは両者の差が拡大している。生年別に20歳から59歳の期間の社会保険料負担をみると、後発世代ほど重くなる。
2.
生年別に20歳から59歳の期間の税負担をみると、20歳台前半と50歳台での実効税率が高い1930年生まれ、20歳台前半の実効税率が低い35年・40年・45年生まれ、両者の中間に位置する50年生まれ以降の世代に3分される。しかし、ライフステージごとの実効税率の世代間格差は実効社会保険料負担率の格差と比べると比較的小さい。給付も含めて考えると公的年金の影響度は極めて大きく、生年による差を無視することができない
3.
7月に国会提出された「年金制度改正法案」と同じ仮定を用いて、片稼ぎ世帯の公的年金に関わる生涯負担と生涯給付の割引現在価値を生年別に計算すると、負担を上回る給付が得られるのは1955年生まれ以前の世代となる。95年生まれの給付は負担の6割にも満たない。現行制度では65年生まれ以前の世代で負担を上回る給付が期待できる。先発世代ほど負担に対する給付の割合は高くなるが、その事実だけをもって世代間の不公平を論ずるのは適当でない。先発世代はもともとの生涯賃金が低いからである。
4.
そこで、「賃金-本人負担+給付」でみた手取り所得の割引現在価値について世代間比較を行うと、45年生まれが最も高い水準となる。手取り所得の水準で見るとすでに受給している世代と現役世代との世代間格差よりも、将来受給する現役世代内部での格差の問題が浮きぼりになる。
5.
公的年金制度は一部の世代の世代内所得格差を拡大するという矛盾もはらんでいる。改正案でも55年生まれ以前の世代では、同一世代において賃金格差よりも年金給付後の手取り所得格差の方が大きくなる。現行制度では65年生まれ以前の世代で世代内格差が拡大する。
6.
以上のとおり、世代間格差・世代内格差の点で年金制度改正案には改善すべき点が残っている。生年別の個人の視点からも情報開示を行い、負担と給付のあり方について開かれた議論を尽くすことが必要である。世代間格差を縮小するために年金目的消費税を導入することで将来料率の引き上げを抑制したり、世代内格差拡大を防ぐために給付における定額部分と報酬比例部分のバランスを見直すこと、なども検討に値しよう。

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石川 達哉

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