1999年07月01日

年金制度改正と個人の生涯所得

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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■要旨

(1)若年層を中心に老後の生活に対する不安感が高まっている。この背景には賃金上昇率が低下するなかで税や社会保険料などの負担は上昇を続けるという構造がある。また、中堅以下の所得階層では公的年金保険料は所得税や住民税よりも重い負担となっている。
(2)99年度は公的年金の財政再計算の年に当たり、3月に厚生省から公表された「年金制度改正案大綱」においては制度基盤の強化に向けた各種改正案と制度全体の収支見通しが提示されている。しかし、生年別にみた生涯負担と生涯給付など個人の視点からの情報開示はなされておらず、負担や給付に対する先行き不透明感を払拭するには十分とは言えない。
(3)「年金制度改正案大綱」と同じ仮定を用いて、片稼ぎ世帯の生涯負担と生涯給付の割引現在価値を生年別に計算すると、負担を上回る給付が得られるのは1955年生まれ以前の世代となる。現行制度では65年生まれ以前の世代で負担を上回る給付が期待できる。先発世代ほど負担に対する給付の割合は高くなるが、その事実だけをもって世代間の不公平を論ずるのは適当でない。先発世代はもともとの生涯賃金が低いからである。
(4)そこで、「賃金-本人負担+給付」でみた手取り所得の割引現在価値について世代間比較を行うと、45年生まれが最も高い水準となる。また、65年生まれ以降の世代は30年生まれよりも低い水準となる。すでに受給している世代と現役世代との世代間格差よりも、将来受給する現役世代内部での格差の方が深刻と言える。
(5)公的年金制度は一部の世代の世代内所得格差を拡大するという矛盾もはらんでいる。改正案でも55年生まれ以前の世代では、同一世代において賃金格差よりも年金給付後の手取り所得格差の方が大きくなる。現行制度では65年生まれ以前の世代で世代内格差が拡大する。
(6)以上のとおり、世代間格差・世代内格差の点で「年金制度改正案大綱」には改善すべき点が残っている。生年別の個人の視点からも情報開示を行い、負担と給付のあり方について開かれた議論を尽くすことが必要である。また、個人個人が改正案で規定される生涯の手取り所得と自分自身が思い描いている生涯の貯蓄消費計画とを照らし合わせることも必要である。そのうえで、自助努力の計画も見直すべきであろう。

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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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