1999年05月01日

下落傾向が続くユーロの行方は?

石川 達哉

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■intrduction

1ユーロ=0.97ドル適正レート説を検証する
統一通貨ユーロが発足して4カ月が経過した。スタート時の1ユーロ=1.18 ドルから下落傾向が続き、5月12日現在1.07 ドルとなっている。こうした状況に対して、5/1付のThe Economist 誌はユーロ地域の将来を悲観する必要は全くないとしている。ユーロ下落は当面の景気減速を反映したものであって、回復のためにはむしろ望ましいという。また、購買力からみた適正水準は0.97 ドルだという試算も4/3号で披露している。
確かに、統合メリットで域内の生産性が上昇し、物価上昇率を域外よりも低位にとどめることができれば、通貨の購買力が増すので中長期的にはユーロ高が期待できる。しかし、その生産性上昇効果が本当に現れたかどうかを論ずるのは時期尚早である。ユーロの将来展望はさておくとしても、当面の水準が適正かどうかを考えてみよう。
「適正水準」の基本にあるのは、世界各国で取引されている商品(貿易財)の内外価格を等しくする交換レートである。米国で2.43ドルの商品がユーロ地域で2.52ユーロであれば、購買力からみたユーロの適正水準は0.97 ドルとなる。Economist 誌が選んだその商品はMcDonald’s のBig Mac である。もし、世界の市場で輸出入される商品がBig Mac だけであれば、この「Big Mac平価」が均衡レートになる。GDPを構成する各種品目の価格に基づいたユーロの購買力平価はないが、マルクやフランなどに関してはOECDによる試算が公表されている。そこで、これらユーロ構成国のレートをGDP規模に応じて加重平均すると1.18ドルとなり、発足時の水準に偶然一致する。ただし、非貿易財やサービスも計算に含まれているから、適正為替水準を示す指標という意味ではBig Mac平価よりも優れているとは限らない。
Big Mac による0.97 ドルとOECD方式の1.18 ドルのいずれが真の適正水準か定かではないので、これら2方式による購買力平価の推移をみると、いずれも現実の為替レートの長期的なトレンドを追うのには有効である。しかし、短期的な乖離幅は決して小さくない。市場レートが購買力平価と比べて高い状況とは、商品の国内価格が外国での価格を市場レートで換算した水準よりも高いということである。このような内外価格差が大きければ、裁定取引による利益機会が生じるのでそれを縮小させる力が働く。だから、長期的には購買力平価と市場レートの乖離も縮小する。
現状に関しては、どちらを基準にしても「市場レートの購買力平価からの乖離」が過去と比べて著しく大きいとは言えない。したがって、乖離を縮小させる力は現状ではさほど強くないと考えられる。つまり、短期的に重要なのは購買力平価からの乖離をもたらす力、すなわち、資本流出入の力である。その基本要因はユーロ地域と域外との金利差である。Economist 誌の言うとおり、年初からのユーロ安は景気減速を反映した金利低下が原因ということになる。ユーロ安がこの先も続くか、反転するかは景気と金利の先行き次第である。そして、域内の景気減速は年内続き、回復は早くても2000年からという見方がほぼコンセンサスとなっている。しかし、話はここで終わらない。

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