1998年12月25日

事業投資を軸に収益構造改革に挑む大手総合商社 -情報通信分野を中心とした考察-

  吉久 雄司

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1.
総合商社は、商取引の仲介に加えて、金融、事業投資、物流など多様な機能を持ち、取扱商品、機能、事業地域の総合性を発揮することで成長してきた。ただし総合商社の機能については、商社を通さない取引の増加で手数料ビジネスが先細り傾向にあること、素材型製造業への依存度が高く産業構造の転換への対応が遅れていること、一般消費者向け市場への関与が小さいことなど、構造的な課題が古くから指摘されてきた。これらの課題はバブル期にも積み残され、現在では過去最悪ともいわれる経営環境のなかで、収益と財務体質の悪化を招いている。一方で大手商社は、80年代中盤から事業投資を活発化させており、その投資リターンを追求することで収益構造の改革に努めている。総合商社が事業投資に注力するようになった契機は、80年代中盤以降の中期経営計画で、情報通信など成長分野に経営資源をシフトする方針が示されたことにあり、それ以降投資残高や連結企業数は拡張を続けている。
2.
その中で国内における大手5社共通の重点投資分野となっているのが情報通信産業で、一社当たりの投資残高は500億円から1000億円の規模にのぼっている。そのうち主な投資分野は、メディア、電気通信、エレクトロニクスである。情報通信産業に対する投資が活発化しているのは、成長市場への対応や川下分野への進出など、当分野への投資が先に述べた構造的な課題を解決する条件を充たしているからである。情報通信産業の投資で特徴的な点としては、投資規模の大きさ・分野の幅広さに加え、商社がエンドユーザーを開拓していること、海外先進サービスの導入、内外有力企業や他商社との提携事業が多いことなどが挙げられる。
3.
メディア事業では、放送分野とコンテンツ分野が主要な投資先である。放送分野では、ケーブルテレビと衛星デジタル放送が2大投資先で、特にケーブルテレビはわが国最大のオペレーターとして、大都市とその近郊を中心に営業エリアを拡げている。現在の所は両事業とも大きな赤字を計上しているが、放送メディアの多様化の進行で加入者数は両事業とも伸びており、2000年代初頭には単年度黒字が視野に入っている企業が多くなっている。コンテンツ分野への投資は、ケーブルテレビや衛星放送に番組を供給する放送ソフト会社が中心である。放送ソフト分野も、現在は競合企業の増加とソフト調達費用の上昇で苦戦している企業が多いが、中期的にはケーブルテレビや衛星放送の市場拡大が寄与してくると予想される。 
4.
電気通信分野への投資は、商社が事業主体として経営に携わった分野(衛星通信、国際通信)と、部分的出資にとどまった分野(長距離通信、地域通信、移動体通信)に大別される。そのうち衛星通信は商社系企業が市場を押さえ経営が安定化しつつあるが、その他の分野では有力通信会社の合従連衡が進むなかで、総合商社のプレゼンスは低下気味である。そのため各社は、新しい通信ネットワークとして成長しているインターネット関連に投資の重点を移している。またエレクトロニクス分野への投資は、コンピュータ販売や情報サービスが中心だが、近年の情報化ブームで業容を拡大した投資先が多く、上場および上場準備に入った企業が幾つか出てきている。
5.
情報通信分野の事業投資は、現時点ではメディア分野を中心に先行布石段階の事業が多いことや、市場や技術の変化で追加投資を迫られる事業が多いことなどから、まだ収益に寄与するには至っていない。しかし個別分野ごとの分析を積み上げていくと、現在の赤字事業の多くが黒字化することや、幾つかの企業が株式公開に至るまで成長することなどから、3~5年後の2000年代前半には情報産業部門の業績は大きく改善して、当部門が大手商社の中核営業部門となる可能性は高いと予測される。また情報通信分野で今後総合商社の活躍が期待される分野・機能としては、電子商取引分野とベンチャーキャピタルが挙げられよう。
6.
事業投資は、配当収入の増加等を通じて単独ベースの収益構造改革には一定の寄与を果たしているが、質的側面から見ると、投下資金に対する配当収入額は小さく、まだまだ改善余地が大きい。特に多額の償却損失が発生していることは、商社のリスク管理能力に対する懸念を生じさせている。そのため今後も商社が事業投資を軸に構造改革を進めるに当たっては、投資リスク管理体制の高度化と、リスクに対する抵抗力の強化が重要な課題となっている。投資リスク管理については、投資決定時・投資後のフォロー・整理撤収の各段階において明確な意思決定ルールを整備するとともに、そのルールをいかに厳格に運用していくかが課題となろう。事業リスク抵抗力の確保については、負債の削減を通じた資本構成の改革など財務体質の強化に向けた対策が求められよう。現在総合商社は氷河期ともいわれる厳しい事業環境にあるが、これからの数年間事業リスク対策に着実に取り組んだ商社については、情報通信分野を中心に事業投資の成果が結実し、春が訪れる可能性が高いと思われる。

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