1997年08月25日

「変化の時代」

  細見 卓

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「光陰矢の如し」 というのは、 世の中が緩やかなテンポで動き、 古代人が過ぎ行く時を惜しんだ時代の言葉であったといえる。 今の世に生きるわれわれにとっては、 時や変化は想像を超える早さと規模で繰り返されており、 いわば歴史は地響きを立てて通り過ぎてゆく軍団のような感があり、 むしろ取り残されていくという実感が強いものとなっている。 規制緩和やビッグバンという現象も対応の遅れを取り戻すための後追いの努力ともいえよう。


最近の変化とパックス・アメリカーナ時代の到来
最近起こった大きな変化は、 例えば欧州では、
(1) NATO条約の東欧への拡大
(2) EUの経済・通貨統合の動きとその領域の全ヨーロッパへの拡大
等があり、 アジアでは、
(3) 中国の台頭とロシアの後退
(4) ASEANの勃興と一部の国の挫折
等がある。 これらは目に見える動きとしての変化であるが、 一方で自然環境の破壊・AIDSその他の難病の蔓延等目に見えない形での変化があり、 こうした世界の荒廃は人類の未来を単に楽観的に捉えることを困難にしている。 いわば方向感覚の喪失がわれわれの苦悩でもある。
また、 上に挙げた4つの変化は、 見方によればいずれも冷戦体制の終焉と新しいアメリカを中心とするいわば 「パックス・アメリカーナ」 時代の到来が背景をなしている。 かつてのローマ帝国のように、 圧倒的軍事力、 情報通信における独占的な強さ、 その政治・経済・文化の相対的な強さ等が、 アメリカをして 「パックス・アメリカーナ」 と呼べるほどの地位に押し上げることになった。 しかし、 アメリカは建国の歴史が浅い多民族国家で、 世界の指導国としての政治的経験についても十分に訓練を経ておらず、 世界の安定を推進する勢力としては未だ熟したものを欠いている。
例えば、 過日デンバーで行われた先進8カ国首脳会議においては、 アメリカの指導性に対してヨーロッパ諸国からの反撥も強く、 パックス・アメリカーナの前途は平坦なものではないようだ。 フランスを中心とするヨーロッパ諸国や中国を代表する新興国はアメリカの性急さを攻撃するに急である。 われわれは趨勢化したパックス・アメリカーナの時代に生きるためには、 アメリカの生い立ちやその精神的伝統についての十分な知識を持って対応していくことが必要である。 これが一次・二次の大戦と冷戦という戦乱の20世紀が終わり、新世紀を平和の世紀とするための不可欠な対応といえる。


パックス・アメリカーナ時代での日本の外交
アメリカの歴史を見れば、 強い自己主張とその反動ともいえる自制と抑制のムードが交互しており、 かつてのモンロー主義やウィルソン大統領時の国際連盟加入拒否の経緯はよく知られている。 日本との関係においても、 日系移民制限・戦時中の日系人強制収容があるが、 アメリカはその後それぞれに対して訂正や保障等の措置をとろうとしたことも事実である。 われわれはアメリカの対外政策がこのように一本調子でなく振れが大きいということについて十分に理解する必要がある。 かつて幣原駐米大使がこうしたアメリカの政策傾向について時のイギリスの駐米大使ジェームス・ブライスから親しく教えを受けた逸話 (注) は、 日本でもよく知られているところである。 われわれはイギリス人のアメリカに対するその本質をわきまえた付き合い方を大いに学ばなければならない。 (注 幣原喜重郎著 「外交五十年」)
かつては欧州を中心に世界がまわり、 日本は極東の周辺国にとどまってその行動も世界の注目を惹くことがなかった。しかし今は、 アメリカがパックス・アメリカーナ時代のリーダーとして指導的役割を占め、 われわれ日本は太平洋の良き隣人として従来よりも一段と緊密に対応していかねばならない。
熟成化されていない若々しいアメリカに対し、 日本が本当に成熟した大人の外交ができるかどうかが、 今後の日本の命運を支配するものとなるであろう。

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