1997年03月01日

アジア経済の中の沖縄と台湾

牛越 博文

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<要旨>

今回行った試算によると、沖縄経済は、基地返還を含む沖縄県・政府の振興策の実施によって、この先約20年にわたって年平均4~5%程度の成長を実現しうる。しかし、公共支出への依存度を全国平均並みに漸減させた場合、成長率も低下、仮に公共支出を0まで漸減した場合は、マイナス成長を余儀なくされる。今後、沖縄経済の自立的発展のためには、公共支出への依存構造を改善しなければならないが、当面はある程度公共支出に依存しつつ、段階的な基地返還とアジア経済とのネットワーク形成を目指す必要があろう。

  1. 沖縄経済は、戦後、米軍基地に依存、本土復帰(72年)後は、公共支出(特に国家財政)にも大きく依存してきた。このことは、沖縄経済に製造業の未発達、観光への過度の依存という産業構造の歪みを生じさせた。その結果、現在、一人当たり県民所得は全国最低で、失業率は極めて高い。
  2. 最近、米軍基地整理・縮小問題に関連して、沖縄県の政府に対する要請(「自由貿易地域制度」の拡充、「ノービザ制度」の導入等)や政府の沖縄振興策などにともない、アジア経済における沖縄経済の自立・発展の可能性が注目されている。すなわち、構造的な基地・公共支出・観光依存体質から、情報関連産業等を集積した足腰の強い経済への転換などを行うとともに、高成長を持続するアジア経済のダイナミズムを取り込むことによって自立的経済発展を達成していく試みである。
  3. その成否のカギを握るのが、内外企業の沖縄への投資である。その中で、最も重要かつ有望なのが、台湾からの投資である。台湾は、97年の香港の中国返還を前に、「アジア太平洋地域オペレーションセンター計画」により、「第二の香港」としての自らの発展を模索する一方、現在、中台間の直接往来の実現が難行する中で、沖縄を「第二の香港」として位置付けようとしている。また、政治的緊張関係が続いている中国に偏った投資を沖縄に分散させる政策も注目されている。さらに、フィリピンのスビック米軍基地跡地再開発において、台湾が主導的役割を果たしたことも重要である。
  4. 筆者の推計によると、2015年度(沖縄県の「国際都市形成構想」目標年次)までに、基地返還を含む沖縄県の要請及び政府の振興策の両者が実施され、台湾など内外からの投資がスビック米軍基地跡地再開発と同程度行われた場合、沖縄経済は年平均4~5%程度の成長が実現できる。しかし、2015年度までに、公共支出依存を全国平均並みに段階的に引き下げた場合、2~3%程度の成長となる。さらに、仮に公共支出依存を0まで漸減した場合には、マイナス成長に陥ることになろう。尚、政策要因除きの成長率は2%を仮定している。
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