1996年12月01日

世界的経済諸元の統一

細見 卓

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

経済のグローパリゼーションの推進が唱えられて既に久しい。先般リヨンで開催されたサミットにおいてもその推進が宣言された。しかし、その際、真のグローパリゼーションに不可欠な経済システムの諸元の国際的統ーについての論議があまりされていない。

欧州の域内単一市場推進の上で、歴史的な経緯のために各国バラバラになっていた経済規格の諸元、例えば鉄道車両の軌間(gage)、積載貨物の規格に始まり経済制度全般に及んでいたバラバラの規格や規制の統一化の問題の処理が手間取り、政治的にも非常に難題視されたことが忘れられている。この時、各国の大変な努力でこの経済諸元の統一が現実化に向かったことで、欧州統合の機運が大きく盛り上がったのである。経済のグローバリーゼーション、すなわちその密接不可離な相互依存の推進のためには、それを妨げているこのバラバラな経済諸元の世界的統一をいかに実現していくかが大きな問題である。

ヤード・ポンド法については、さすがの頑固な英米国民もメートル法への統一に合意せざるをえなかったが、米英国内ではこの古い計量システムが日常的に完全には廃止されていないようである。当面の通貨呼称の変更については、今、欧州諸国が全力を上げてその実現に向け努力しているのを見ても、人間の習慣や古い習俗を改めるのがいかに手間取るかをみせつけられている。経済の基準や規格、計量の方法といった問題は必ずしも国の利害に直結するものではないが、狭いナショナリズムと結びつくとその変更がひどく難しくなりがちである。規格不統一のために生ずる不利や摩擦を克服するという大きな利益の前に、これはどうしても乗り越えなければならない障害である。

伝統的に、通商貿易のルールは最大輸入市場国のものに従ってきた。英帝国全盛時には、英国のヤード・ポンド中心の通商ルールが世界で援用され、米国経済全盛時には、米国のそれが支配的だった。米国はGATTを通じて、そのルールを受け入れさせようという強い動きの中心勢力となり、またそれがある程度成功してきた。例えば、互恵関税に対する考え方とか、不当な貿易障壁といったものに対する考え方は、GATTの下で漸次世界のルールになってきた。

今やその覇権国米国が昔日の強力なリーダーシップを弱め、GATTはケネディ・ラウンド、東京ラウンド、ウルグアイ・ラウンドといった大きな関税交渉を経るたびにその勢いを失い、WTOにおいては、弱小国も強大国もともに一国一票という、いわば強い統制のない拡散の時代に入ろうとしている。世界の通商法規が、最大輸入市場国のそれに近づいていく今までのやり方は、米国に匹敵する大欧州市場の出現を前にして、新しい局面を迎えようとしている。世界の通商貿易の将来を展望する時、貿易に全面的に依存していかなければならない日本としては、GATTのルール、米欧両巨大市場のルールや基準(両市場の歴史的、伝統的近似性を無視できない)を前にして、日本だけが世界基準との相違からくる混乱や衝突に陥らないために、今すぐ積極的にこの問題に取り組むべきである。

幸い、今度の選挙を通じて、細かな規制や日本的官僚統制の撤廃が大いに強調された。大幅な規制緩和をはかる時には、ナショナリズムを刺激することなく、外国とは異なる我が国の経済諸元や規制を改めて、世界の基準と一致させる好機と考えるべきである。まして、経済諸元を変えたり、新しく作ったりすることの需要創造効果は意外に大きく、その経済刺激効果は安易な公共投資よりも影響も多きく、また建設的でもある。これは今すぐ、真剣に検討されるべき問題であろう。世界が米国一国の経済力に頼って発展できた時代は終わり、今後は各国が力を合わせて発展をはかる時代になっている。日本も世界的経済諸元との統合に向け、最大限の努力をしていくべきである。今後日本の貿易黒字問題は、世界の非難の的になることを覚悟しなければならない。その際、実際には経済効果のない経済諸元の違いは、日本の特異性としてあたかも経済障壁のように攻撃されることになろう。そうなってからの経済諸元の変更は、いたずらにナショナリズムを誘発する契機となるおそれがある。

今、世界経済は急速に時間と距離を超えて進んでいる。世界の経済諸元に自発的に合わせていくことは、いわゆる文化や文明の問題ではなく、経済や日常生活の問題として、現実的合理的に処理すべき事柄にすぎない。速やかな実現に大きな障害はないと思う。

Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

細見 卓

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【世界的経済諸元の統一】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

世界的経済諸元の統一のレポート Topへ