1996年11月01日

サービス業の低価格戦略-外食、ホテル業界にみる価格引き下げ

  野々山 尚子

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<要旨>

  1. ここ数年消費財を中心にモノの価格は確実に低下した。サービス分野においても外食やホテル、旅行等を中心に価格低下が目立っている。こうした価格低下現象の背景には、景気悪化等の循環要因と、競争激化、流通構造の変化等の構造要因がある。加えて、消費者の低価格志向の拡がりが、価格引き下げを助長するかたちとなった。特に選択的支出性の高いサービス分野では消費者による購入手控えも加わり、価格引き下げを後押ししたと思われる。
  2. 低価格ブームを受けて、外食業界ではファミリーレストラン、ファーストフードを中心に、価格引き下げの動きが活発化した。また、都市ホテルでは客室料金の割引や割安感を高めた企画商品の提供が行われた。事例から見る限り、価絡引き下げによる需要喚起効果は大きかったが、非価格要素であるサービスの質に対する消費者の評価が需要を左右するなど、価格引き下げ戦略の難しさも立証されるかたちとなった。また、価格引き下げ効果が不十分で、結果的に収益性が悪化するなど、長期的にみたマイナス面が表面化した業界もある。
  3. サービス分野では、その提供するサービスにおいて非価格要素の占める割合が高いため、一定のコスト削減を伴う価格引き下げはその影響を十分考慮して行う必要がある。サービス分野では人件費の圧縮を除けば、製造業のようなコスト削減による価格引き下げ余地が少ない。しかし、人件費の削減はサーピス業の最も本源的な「サービスの質」低下につながるため、これと引き換えに低価格を実現することは大きなリスクを伴う。こうしたことが、サービス業における低価格戦略を一層困難で複雑なものにしている。
  4. サービス業はその事業特性から、提供するサービスの内容・価格についての情報が消費者に十分伝わらない傾向が強く、情報不足から消費者の支持が得られずに、正当な評価を受けることができなくなるリスクを内包している。今後、消費者の「価値」や「価格」に対する評価も、より多様化、成熟化することが予想され、サービス分野における価格戦略には、積極的な情報提供がこれまで以上に求められるところである。また、格付け機関のような第三者による客観的な評価は、サービスに対する信頼性を高め、新たな需要を喚起することにつながろう。
  5. 企業間競争が激化するなか、サービス価格の低下は今後も拡がる可能性が高く、企業の価格設定の戦略的な重要性は一層高まるものと思われる。これまで供給側から一方的に提示されてきた感の強い価格にも、今後は消費者の負担能力から見た適正価格の視点や、消費者の利便性を考えた弾力的な設定による多様化の可能性が考慮される必要があろう。サービス価格の多様化やサービスの質の標準化は、結果として需要を高め、サービス業の長期的な業容拡大、業界発展へとつながっていくものと恩われる。

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