1996年10月01日

国際資金フロー展望-世界的貯蓄不足は深刻化するか-

田坂 圭子

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<要旨>

  1. 国際資金フローは、国内の資金需給不均衡が反映され、これを事後的に均衡化する資金流出入であり、世界的な貯蓄過不足の偏在によって発生する。
  2. アジアを中心とする新興経済の高成長が世界の資金需給を逼迫させるとの懸念があるが、実証的には高成長の国ほど貯蓄率は高く、しかも発展途上国の場合はむしろ高成長が貯蓄率上昇をもたらしている。今後国際資金需給が逼迫するならば、その原因はアジアなどの高成長による投資超過よりも先進国の貯蓄不足であろうと思われる。
    民間部門の貯蓄率に影響を与える構造要因としては、人口構成が重要である。一般に、老年者と年少者の人口比率が高い国の貯蓄率は相対的に低いことが知られている。また、政府の財政収支が国全体の貯蓄水準に与える影響も大きい。
  3. 80年代末の冷戦終結後、新興経済の資金需要拡大による世界的資金逼迫懸念が高まった。しかし、90年代前半は先進国が景気低調となって資金需要が抑えられたこともあり、世界貯蓄不足の危機感はその後やや薄らいでいる。
  4. 今後先進国経済の回復に伴い、景気循環的には世界の資金需給は引き締まりに向かう。また構造的にも、(1)先進国の人口高齢化によるISバランス悪化、(2)新興経済の資金需要のさらなる拡大、という資金需給逼迫要因が指摘できる。しかし、社会保障制度の改革を迫られている先進各国の財政再建努力の継続と、新興経済の資金自己調達拡大から、21世紀初頭にかけて世界的貯蓄不足が深刻化する懸念は小さい。
    一方、当面白主的な資金流入の期待できない新興経済の潜在的資金需要を満たすためには、(1)資金需要をクラウド・アウトしている先進国、特に世界金利水準に与える影響の大きい米国の貯蓄不足改善、(2)安定的マクロ経済政策運営、国内資本市場の整備・育成など、資本受け入れ側のインフラ整備が必要である。
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