1996年10月01日

閉塞状態を打ち破ろう

  細見 卓

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ある雑誌に、現在の閉塞状態の原因を識者に問い合わせた、興味ある記事があった。その原因を大きく分けると、一つは、縦割り思考のセクショナリズムによって、大きな変化に対応できなくなっているリーダーの無能力と、それに呼応するごとく自分で発想の転換をはかることができない、くたびれた精神構造を持った大集団、故丸山真男教授の言った「タコツボ」現象の世をあげての蔓延である。更には、そういう行き詰まりに当面しても、そこから飛び出すための行動を取りえない、つまり物事を進んで決められない受動的症候群、といった社会現象をあげている。いま一つは、日本の当面する複雑な国際情勢の中、日本が前面に出ることを認めたがらない米国の意向と、それに対する絶望感があげられている。

国際情勢は今後も多様性を増し、それにつれ日米関係はますます複雑さを深めていくであろう。これに対しては、ひたすら国民の外交的成熟に期待するのみである。セクショナリズム、横並び思考とか悪い意味での平等指向とかの害については触れるまでもなく、国民自身の多くが痛感しているところであろう。そうした中で問題なのは、個人的にも社会的にも行き詰まった古い制度や考え方を打ち破って、新しいものを作りだしていかなければならない大事な時に、いわゆる決められない症候群に陥り、無気力状態から抜け出れない状況が続いていることだ。各個人が強い個性を発揮して、独自の行動を取ることがなくなっている日本人の個性喪失症や、より基本的問題として、新しい時代相応しい社会制度や枠組みを創出する能力を欠いた立法家集団には目を覆うばかりである。各人各様が新しい工夫のないまま右顧左眄している今の日本の精神状態をいかに克服して、次の世代の新しい発展の萌芽を生み出していくかが当面の最大の課題であろう。その答えは、容易ではないが、今や放置できないものとなっている。

この欄で何度も述べたごとく、世界は今、メガコンペティッションの時代に入ろうとしており、ヨーロッパ諸国の混迷は追われる先発工業国の当面する苦悩をいかんなく表している。日本では、国民の関心はただバブルの崩壊とそれに伴う巨大な損失と不況にいかに立ち向かうかということに向けられている。しかし、ヨーロッパが高失業の惨状から容易に脱却できないのは、既に世界的大変革に取り込まれているからである。これは当然、明日の日本の苦悩であり、また、米国に起こっている様々な悲惨な社会現象も明日の日本に起こるものと考えなければならない。そして、それが明日の自然なら、私たちはそれをいかに回避克服するかに全力を傾けるべきであろう。時間的な余裕はない。今の政治的、経済的困難から抜け出して、厳しいメガコンペティッション時代に備えて、国民の生活と雇用を守っていくための対策を講じることは焦眉の急である。

大切なことは、我々一人一人が合理的にしかも客観的に事態の深刻さをよく認識して、国際社会で受け入れられる形の打開策を見つけ出すことである。もはや、追いつけ追い越せの模倣すべき先例もないし、勝手に日本流を押し通すこともできない。よくいわれるように、行動をガイドする海図も未作成のまま、荒海に乗り出していくような事態である。船は沈まないであろうし、また沈ませてはならないことは当然だが、そのためには船長初め船員達の的確な情勢判断と必要であれば嵐の荒海をも乗り越える気概が要請される。

日本は歴史的に困難に面した際、信じられないような飛躍と団結を発揮してきた。黒船来ると大慌てした幕末より、深く、厳しいかも知れぬ困難が目前に迫っている。それにしても、乗員一同がなすこともなく、いたずらに焦燥感に振り回されているのは、困難な荒海を乗り切る態勢とはあまりにかけ離れていわざるをえないのではなかろうか。

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