1996年09月01日

香港・シンガポール・上海のオフィス事情

  中野 康光

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<要旨>

  1. 都市国家である香港・シンガポールのオフィスストックは東京都と比較すると3割以下と小さいが、外資系企業を吸引することで成長を続け、中心オフィス街の拡大とともに最近ではオフィス街の分散化も進んでいる。一方、上海市は東京を上回る人口を持つ中国最大の都市であるが、オフィス市場自体は経済解放の本格化(1992年)以降にようやく形成され始めた未成熟な段階にあるため、都心部のオフィスは点状に立地している状況にある。
  2. 3都市のオフィス需要は、自国企業に加え外資系企業が重要な地位を占めている。これは、シンガポール・香港が外部依存型の経済構造であること、経済解放後の上海市における経済牽引役が外資系企業のためである。そのため、各国政府が積極的なビジネスインフラ(国際空港・港湾施設等)の整備や外資優遇政策(シンガポールのOHQ・BHQ制度、上海の浦東新区開発)を実施し、外資系企業誘致をサポートしている点も見逃せない。
  3. 3都市のオフィス市場をみる上では、華人系ディベロッパーの動向を注視する必要がある。香港では、この華人系主要ディベロッパー5社と英国系ディベロッパー2社がビジネス街のオフィス保有をリードしている。シンガポールでは、華人系ディベロッパーと政府系ディベロッパーがオフィス保有面積で鏑を削っている。上海市では、土地使用権確立後、主に香港を中心とした華人系ディベロッパーが大挙して参入、都心部に多数の再開発オフィスビルを建設中である他、浦東地区にも大規模なオフィス集積が形成されつつある。
  4. 3都市のオフィスマーケットの現況をみると、香港は1992~1994年にかけての価格急騰後の調整局面にありオフィス賃料はピーク時より35%の大幅下落の状況にある。シンガポールは高い経済成長とアジアにおける拠点性の高まりに支えられ史上最高値でのオフィス売買が行われるなど好況を持続している。上海市はオフィス供給の急増により価格調整が行われ一時の需給逼迫が解消されつつある。3都市とも不動産制度は英国に準じており、土地は国家による所有のため土地リース権での取引が基本となっている。香港ではオフィス市場が一般投資家にまで開放されているため、短期売買が主流で投機的な動きをするのに対し、シンガポールではディベロッパーが長期保有思考であることやオフィス需給バランスを政府がコントロールしていることもあり安定的な市場となっている。上海市では、物価同様国内企業向けと外資系企業向けにオフィス市場が二極化している。
  5. 香港のオフィス市場は、短期的には、経済成長の鈍化と中国返還後の先行き不透明感もあり、オフィス賃料の価格調整が更に進行するとみられる。97年の中国返還後の香港は、中国華南地区との連携を強めながら中国と世界とを双方向に結ぶ窓口としての機能はより強化されるとみられる。そのため、外資系企業・中国企業を中心としたオフィス需要の拡大が見込まれ、オフィス市場は緩やかに回復すると見込まれる。しかし、自由放任型資本主義と社会主義という全く異なる経済体制間の統合であること等の不安要因も多く、オフィス需要は中国返還後の社会・経済情勢に大きく左右されそうである。
    シンガポールのオフィス市場は、短期的には供給の増加による一時的な空室率の増加と賃料の抑制の方向に向かうとみられる。しかし、長期的にはベトナム・インド等アジアの新興諸国への生産拠点の進出が加速されるとともにその地理的中心に位置するシンガポールの統括拠点需要は益々拡大すると考えられ、オフィス市場は安定的に推移していくものとみられる。
    上海市は、外資系企業の進出を上回るスピードで今後も都心部及び浦東新区にて大規模オフィスが相次いで竣工するため、2000年頃まではオフィスの供給過剰が避けられずより一層の価格調整が続くとみられる。ただ、2000年以降は、国内消費市場の拡大とともに新たな企業進出も見込めるため需給バランスは緩やかに回復していくものとみられる。しかし、中国政府の外資系企業に対する優遇政策の見直しによっては、外資系企業進出(=オフィス需要拡大)が鈍化する懸念もある。

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