1996年07月01日

構造変化するオフィス市場-21世紀を展望する-

松村 徹

岡 正規

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<要旨>

I.市場の現状

1.オフィス賃料は東京、大阪とも低下傾向にある。東京の下がり方は大阪に比べ大きいが、底打ちの兆しもみえる。
2.空室率は東京、大阪とも1994年6月をピークに低下したが、大阪では再上昇し、やや不安定に推移している。
3.東京の空室率低下は、新規募集賃料の大幅な引き下げによる面が強い。景気低迷の影響でオフィス人口は伸び悩んでいるが、コストの低下で一人当たり床面積は拡大し、全体のオフィス需要は増加している。

II.当面の市場見通し

1.短期見通し:1996年から1997年にかけて
オフィス市場は、短期的には景気動向に左右される。趨勢として景気回復がゆるやかに進み、1996年から1997年にかけて空室率は低下し、賃料も下げ止まって安定する見通しである。
2.中期見通し:1998年から2001年にかけて
中期的には、企業の情報化投資と組織のダウンサイジングが同時に進むため、景気回復が続いても、オフィス需要は微増にとどまる。供給が抑制されるため空室率はさらに低下するものの、2001年に東京では4~5%程度、大阪では2~3%程度と予想される。

III.長期の市場構造変化:2010年頃まで

1.戦後長期にわたり地価の高い上昇率を支えてきた様々な経済・社会トレンドが、1991年のパブル崩壊前後から大きく変化しており、今後、商業地価は不良債権処理に伴う不安定な調整期を経た後、これまでとは異なる循環的な低成長トレンドを示す可能性が高い。
2.オフィス需要は、オフィス人口の伸びが鈍るため量的拡大ペースが鈍化する一方、情報ネットワーク化の進展、企業のコスト意識の高まり、リスク管理の普及を背景にした質的変化(高度化・多様化)が予想される。例えば、設備面や耐震性など構造面、オフィス立地や形態などに対する要求が高度化・多様化する。
3.このような地価上昇トレンドとオフィス需要の構造的な変化により、オフィス供給を行うピル事業者は、事業の再構築を迫られる。
 既存ビルストックの商品価値維持のためには、リニューアルや建て替えを行い情報化対応や耐震性能の向上を図ることが大きな課題である。
 また、オフィス需要と賃料の伸びが低下し、金額ベースでみた市場規模はこれまでのような拡大が期待できない反面、価格変動リスクや空室リスク、震災リスクなど様々な事業リスクが高まる。ビル事業者は、(1)キャピタルゲイン依存から収益重視へ、(2)資金調達の多様化、(3)専門機能の分化、という方向にパラダイム(考え方の枠組み)を転換しなければこのような環境変化に適応できない。
4.しかし、ビル事業の再構築のためには、個々事業者の努力に加え近代的な不動産投資市場の整備も必要である。特に、海外投資家も含め新しい資金供給者や投資家の市場参加を促す仕組みづくりが重要で、今後、不動産評価の見直し、不動産および債権の証券化・流動化の推進、プロジェクト・ファイナンスの導入、借家法や税制の改正、専門機関の育成など、広範囲におよぶ環境整備が求められる。
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