1995年05月01日

岐路に立つ東京の製造業 -生産機能の低下と国際分業構造における新産業謝出の役割-

竹内 一雅

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<要旨>

1. 東京都ではこの3月に産業空洞化対策プロジェクトチームを発足させ、都内でおきている空洞化の現状を調査し、総合的な空洞化対策を策定しようとしている。東京の工場や製造業従業者数は長期的に減少傾向にあり、この10年間で工場数は4分の3にまで減少している。

2. 近年の東京の製造業は量的な面よりもむしろ、「研究開発や設計・試作機能を含む新たな産業や新しい技術の創出機能」という質的な面においてより重要な役割を担ってきた。しかし最近ではそうした質的な面でも弱体化が始まっている。近年、都内製造業の研究・開発に携わる従業者数は頭打ちとなり、新産業の芽となるベンチャー企業数は減少しつつある。さらに、日本の加工組立型産業の支持基盤の役割を果たしてきた金型・鋳造・鍛造・プレス等の基盤産業の集積も縮小しつつある。

3. 都内製造業の生産機能が質的にも質的にも弱体化が進みつつある要因として次のような点があげられる。

(1)都内の高地価、高賃金、若年労働力不足など都内の生産環境の悪化。これらの要因は開業率を低下させると同時に都内産業の活性化を阻害している。
(2)親企業による内製化の推進や下請企業の絞り込みといったりストラクチャリングの動き。これにより下請け企業の取引総量が減少するため、下請け企業間の競争を激化させ、小規模企業の経営環境をより厳しいものにしている。
(3)円高の進展に伴う製造業の国際競争力の低下と収益悪化対策としての海外進出の進展。都内の製造業の海外進出比率は全国平均を大幅に上回っているため、親企業の海外進出による下請け企業への取引量の縮小などの影響が大きい。
(4)日経企業の海外進出の進展に伴うアジア各国の生産・加工能力の増大。アジア地域における生産・加工能力の増大により、製品開発機能や基盤機能の海外移転・海外調達が進展しつつあり、都内の研究開発機能や基盤産業にとっても強力な競合相手となりつつある。

4. このような都内製造業を取り巻く環境をみると今後一層の生産機能の弱体化が予想される。しかし最近10年間の製造業の技術進歩率*を推計してみると、東京都の製造業は全国平均をはるかに上回る高い技術進歩を達成していることが分かった。これまでに保持してきたこうした高い技術革新能力を一層強化することにより、東京の製造業は今後も日本の新産業創出機能としての役割を巣たしていくことができると考えられる。
*技術進歩率:生産額の成長が労働と資本の成長及び技術進歩によるものとし、労働要因と資本要因では説明できない部分を技術進歩率(総要素生産性)として推計している。

5. 以上の検討から、今後の東京の製造業の基本的な方向は、日本における新産業創出拠点から国際分業構造における新産業創出拠点としての機能の転換と強化にあると考えられる。具体的な方向としては次の点があげられる。

(1)活発な新規開業による東京の製造業の技術開発の活性化
(2)新技術開発の苗床としてのベンチャー企業及び既存中小企業の活性化
(3)国際的分業関係の中でのネットワークを活用した新産業・新製品開発拠点としての整備
(4)世界で最も品質に厳しいといわれる、巨大市場東京の需要者・消費者への対応力の強化
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