1995年02月01日

定期借地権住宅ブームは定着するか -その現状と課題-

関谷 匡

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<要旨>

1.平成4年の借地借家法改正により「定期借地権制度」が創設され、これを利用した「定期借地権住宅」がブームになっている。その背景には、以下のように事業関係者の利害が一致したことがあげられる。

(1)宅地化すべき農地を抱えた地主層が、資金調達の必要がなく土地の返還が法的に担保されている定期借地権に魅力を感じた。
(2)住宅メーカーは、地主層に対し賃貸アパー卜に代わる新たな提案を行い、住宅建築による利益が期待できる。
(3)これまで戸建住宅をあきらめていたユーザー層が、所有権分譲住宅の半額程度の金額で購入することができる。
(4)税理士・弁護士等は、事業スキームの構築や法務、税務などのコンサルティング業務などでビジネスチャンスが増大する。

2.主な販売事例から、次のような特徴がみられる。

(1)土地は三大都市圏市街化区域内の宅地化すべき農地が中心である。
(2)敷地は50坪以上、建物は40坪程度と、所有権分譲住宅と比べ大型の物件が多い。
(3)契約に関して保証金の授受が定着しており、金額は数百万円から1,000万円前後、更地価格に対して20~30%程度の水準である。
(4)保証金と建物代の合計は所有権の場合の半額程度に設定されている。
(5)月額地代は30,000円程度に設定されているケースが多い。

3.制度発足後間もないこともあり、さまざまな課題を抱えたまま販売が増加している。特に問題とされるのが、(1)借地権を賃借権とするか地上権とするか(2)保証金の水準や保証金への融資問題(3)契約期間中の解約や期間満了時の取扱い(4)流通市場の整備-等である。

(1)借地権については既存事例では賃借権が一般的だが、住宅・都市整備公団は、権利金の授受のみで地代の支払いがない地上権方式による事業化も検討している。
(2)保証金については、その意義、設定金額とも供給者側の論理で組立てられており、保証金融資問題とも合わせ、高額の保証金や保証金方式そのものの見直しも必婆となろう。
(3)借地人による中途解約は、戸建住宅では認められる方向にあるものの、集合住宅では実際上難しい。期間満了時の取扱いについては、借地人が更地返還することを原則としつつ、その時点の建物の価値などに応じて柔軟に対応する方向が検討されている。
(4)流通市場整備のためには、転売時の保証金額の見直しゃ中古住宅価格鑑定方法の整備等が必要であろう。

4.このような事業方式面の課題が解決されたとしても、供給者側の都合を優先し無秩序な供給が続いた場合、狭小な賃貸アパー卜が過剰に供給され需給関係が悪化したように、立地条件の悪い定期借地権住宅が供給過剰になるおそれがある。これからは、年代別の世帯数の動向や人口の地域間移動など、住宅市場をめぐる長期的な動向を視野に入れた定期借地権住宅の供給が求められよう。多少高価格であっても住環境が優れていたり利便性が高い戸建住宅や都心型マンション、業務機能が分散した場合に地方部で発生する住宅需要に対し地価高騰を招かない定期借地権住宅など、多様なニーズに対応する住宅供給が考えられる。

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