1994年11月01日

税制改革を巡る最近の動き

櫨(はじ) 浩一

高橋 智彦

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<要旨>

  1. 日本経済は長期的な問題として21世紀の高齢化社会への対応を図るという課題を、短期的にはパブル崩壊による経済の不振と大幅な経常黒字による対外摩擦の解消という問題を抱えている。高齢化に対応した税制改革の一環である直間比率の是正を「所得税減税を先行させ消費税の引上げと時間差方式で行う」という案の登場により、今回の税制改革は、(1)高齢化社会に対応した財源の確保、(2)高齢化社会における活力の維持のための直間比率の是正、(3)短期的な景気対策・対外摩擦対策としての所得税減税、という三つの側面を合わせ持つものとなった。このレポー卜では、1993年11月に政府税制調査会の中期答申が出されて以降の税制改革の動きと残された課題を中心に検討を行った。
  2. 税制改革の背景となっている政策の流れとしては、長期的な高齢化社会への対応として、「社会保障制度の改革」「行財政改革」があり、短期的課題への対応としては、「景気対策」「対外経済摩擦対策」がある。
  3. 税制改革を巡っては様々な動きがあったが、最終的に決定された「税制改革大綱」(1)ネットでの税収の増加幅は小さく高齢化社会の財源確保には不十分、(2)直間比率の是正は小幅、(3)「累進構造の緩和」による高齢化社会における活力の維持という税制調査会中期答申の精神からは遠ざかった、等から長期的課題への対応としては不十分なものとなった。短期的な景気・黒字問題への対応としては、条件付きながらも減税の3年先行が決まったことから、当面の景気にはプラスに作用しよう。
  4. 税制改革を巡る論点は、(1)増減税中立かネッ卜増税か、(2)消費税の逆進性、(3)その他の問題-の3つに集約することができる。高齢化社会における社会保障や福祉のために負担増が必要という考えと、今回の税制改革と高齢化社会への対応とは切り離して議論すべきだとの意見が対立した。また、消費税の引上げに対しては抵抗が大きく、所得税減税と消費税の増税のセットでは低所得者層の負担が増加するという議論が強かった。その他の問題では、「地方消費税」の導入を巡る対立があった。
  5. 税制の残された問題としては資産課税の問題等があるが、本レポー卜での指摘は以下のとおりである。
    1. 将来的には社会保障も含めた「所得に対する公的負担」は増加する。高齢化社会の活力の維持のために所得に対する公的負担の賦課の軽減が必要である。また、法人所得に対する課税の軽減が日本経済の活力維持の観点から重要であろう。
    2. 社会保障制度改革と税制改革は切り離されて議論されてきたが、この二つが相互に関連していること、税、社会保障負担を合わせた所得階層別の負担の設計が必要なことから、税と社会保障負担を合わせた議論が必要である。
    3. 財政再建と税制改革の関連では、財政の現状について国民の正しい理解が重要であり、そのための情報の提供が求められること、税収の安定は一方で財政が持つ景気の自動安定化機能の点からは新たな問題を生む可能性があること、景気の回復力は弱く増税が可能となるには時間を要し、消費税の導入と特別減税の終了時には景気への配慮が必要と見られること、が指摘できる。
    4. 地方消費税を巡っては税の技術的側面が強調され、国民になぜ地方消費税が必要なのかの理解が進まぬうちに、最後は理念のはっきりしない政治的決着となった。地方の時代に地方自治を支えるために、どのようなシステムが必要なのか、さらなる議論が必要である。
  6. 今回の税制改革は中途半端なものであり、いずれまた、大幅な制度の改革が必要となろう。その時になってまた一から議論を蒸し返すのでなく、今ただちに高齢化社会に向けて税制調査会の目指した「活力ある社会」の制度はいかにあるべきか、総合的な議論をスタートさせることが必要であるう。
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