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- 企業中心社会の中の家族 -サラリーマン家庭の生活実態とその変換の可能性-
1994年08月01日
<要旨>
- 戦後の産業化の下で、家族は大きく変化した。とりわけ我が国では、産業化の進展と並行して、「企業中心社会」とよばれる現代の社会構造が生まれ強化されてきたといわれ、この社会構造が家族に及ぼした影響は大きなものがあったと考えられる。本稿では、こうした社会の中の家族の姿を客観的に把握し、そこに起こりつつある変化の芽をとらえていくという視点からの現代家族像へのアプローチを試みた。
- サラリーマンの平均的な生活構造をみると、仕事関係が生活の大きな部分を占めており、一方で家族との接触は少なく、企業に軸足を置いた構造になっている。意識面でも、サラリーマンである夫と妻の双方に、企業への根強い期待・依存意識が認められた。
また、夫の企業との関わり方のタイプによって、夫自身の生活や意識、妻の意識、夫婦の関係等に差異が確認され、行動面での関わり方のみならず、意識面における企業への期待・依存の程度によって生活構造が異なる点が注目される。特に、意識面で企業への期待や依存がさほど強くないにもかかわらず、行動面での強い関わりがあるタイプの中から、意識と行動のギャップによって現状に不満をもつとみられる忍従派ともよベるサラリーマン像が浮かび上がった。 - こうした行動レベル、意識レベルでの企業への関わり方の強弱の決定には、企業の労働時間制度や職場の風土、雇用システム等が関与していることが示唆されている。また、サラリーマンの企業との強い関わりを成立させている装置が、企業中心社会の中に身を置くサラリーマン自身の行動や意識によって、さらに強化されてきた可能性が高い。つまり、企業中心社会においては、企業により強く関わるサラリーマンを再生産するメカニズムが働いてきたことがうかがえる。
- 一方、こうしたサラリーマン家庭の子どもたちの生活をみると、父は「仕事をする人」、母は「家事をして自分を育ててくれる人」といった機能的な役割で父母像をとらえる傾向がみられ、そうした子どもたちの生活領域は学校、塾、家庭に限定され、子どものミニサラリーマン化ともいうべき現状にあることが把握された。このことは、いわゆる会社人間が家庭の中でも再生産されている可能性を示すものである。
- 産業化の進展の中で社会全体の構造に高度に組み込まれ、画一化の要請が家族の外部から強く働き、これに最大限適応することで生活の向上を実現してきた家族像が鮮明になった。それは、社会の要請であると同時に、家族サイドの要請でもあった。こうした基本構造は現在も根強く残ってはいるが、一方でこうした家族を支えてきた装置が解体し始め、家族の中からも企業以外の生活領域にも軸足を置いて生活をしようという動きが生まれてきている。新しい社会構造への変換にあたっては、旧来の価値観との葛藤が予想されるが、個々人が自律的にライフスタイルを選択できる社会を念頭に置きつつ、個人、家族、企業の新しい関係を模索すべき時期にさしかかっている。
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