1994年03月01日

年金ALMの展望 -わが国の企業年金制度への適用可能性-

  田中 周二
  乾 孝治

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<要旨>

  1. バブル崩壊以降の厳しい運用環境を背景にして、年金ALMの論議が盛んになってきている。年金ALMは、米国や英国の年金基金のリスク管理技術として徐々に普及してきた考え方であり、年金財政の長期的な運営方針の策定や、日常的ないし定期的なリスク管理を行う手法である。
  2. 年金ALMは、従来、企業年金の資産運用方針の策定に採用されてきた資産配分の考え方とは異なっている。従来の資産配分では、異なる資産クラスの組み合わせの中で、同一リスクで最も期待リターンの高い最適ポートフォリオを選択することが目的であった。伝統的には、資産価格の変動性がリスクであり、負債である年金受給権の価値との関連性は、明確には意識されていなかったのである。
  3. しかし、年金基金の第一義的な目的は、受給者に対する年金の支払保証であり、その支払保証ができなくなる事態がリスクである。これを明確にするには、リスクを、剰余金(サープラス)=「資産価値-年金受給権の価値」が枯渇する可能性と捉えればよい。年金ALMにもとづく資産配分は、サープラスの変動性び着目するところに最大の特徴がある。
  4. 米国で年金ALMの概念が普及する契機となったのは、年金会計基準であるFAS87号の寄与が大きいと言われている。この会計基準により、資産の時価評価に加え、負債についても初めて時価評価が可能になり、時価ベースのサープラスの概念が確立することになったからである。
  5. 年金ALMの手法には、一時点の貸借対照表上の負債価値/資産価値の両側の変動性を監視し、リスク管理を行おうとする「バランス・シート型」のALMと、将来の年金収支の動きを様々なシナリオの下で予測しようとする「シミュレーション型」のALMがあるようである。利用目的に応じて、どちらの考え方も有用である。
  6. 年金ALMの最大の効用は、年金制度が内在的に有するリスクを計数化し、リスクに対する理解を深めるところにある。その利用者は、モデルの適用限界を認識した上で、リスク許容度についても自己認識を深める、といった複眼的な見方が求められることになる。

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