1994年02月01日

流通を取り巻く環境変化と今後の小売業 -価格破壊で早まる構造変化-

窪谷 治

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<要旨>

  1. わが国の小売業界は未曾有の消費不振に直面している。消費マインドが低迷するなかで、消費財に対する低価格志向が浸透してきている。実際に安い価格が実現したことで、消費者の「モノの値段」に対する疑問が一気に顕在化した。加えて、流通慣行や規制に対する批判、内外価絡差問題と、流通業界を取り巻く環境は急変しており、長期間根付いてきた流通構造や価格体系が大きく変貌しつつある。
  2. 同時に、既存小売勢力の優位性が低下している。百貨店は80年代末の消費拡大期に高コスト体質が増長されたほか、出店・増床・店舗高級化といった設備投資競争のツケは大手スーパーにも重くのしかかってきている。また、わが国商業を支えてきた中小小売業は、店舗数が減少の一途を辿っている。
  3. こうした中にあって、ディスカウンターなどの価格破壊業態は、かつての「特殊な小売業」から脱却し、身近な業態として定着しつつある。価格破壊ビジネスは、消費者の声の高まりを追い風に、高価絡を支えている諸要因が取り払われ、低価格化が各業態に浸透するまで成長を続けるであろう。また、通信販売などの無店舗販売も、女性就業者の時間節約志向や、低価格の実現、取扱商品の拡大、商品信頼度の高まりなどから一段の成長が見込める。
  4. 「価格破壊」に端を発する流通構造の変革は、とりわけ流通システムに対する疑問が消費者の声として沸き上がってきている点が注目される。価格に対する感応度の高まりは、日本的流通慣行が低価格商品の実現にマイナスに働いている点を消費者に認識させることとなった。このような「消費民主主義」の高まりを受けて、小売業は今後ある程度までの低価格化を標榜せざるを得ない状況に立たされており、川上のメーカーや卸売部門のシステムに変革を迫ることになろう。
  5. このように今回の流通構造変化の動きは一時的なものではなく、「第二の流速革命」として、わが国の流速システムを大きく変えていくことになろう。小売業の近未来を展望すると、百貨店や中小小売業など既存勢力が更に後退する一方で、「低価格」や「利便性」に戦略特化したディスカウント店、カテゴリーキラー、コンビニエンスストア、無店舗販売などの「成長勢力」の小売販売に占めるシェアは現在の30%内外から飛躍的に拡大し、2000年には45%前後lこ達するものと思われる。
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