1994年02月01日

新しい年を迎えて

  細見 卓

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年初以来、目まぐるしい速さで世界も日本も変わり続けている。古いものが壊れていくにもかかわらず、新しいものの姿・形は明確に浮かんでこない。

国内政治で言えば、55年体制が崩れ自民党政権は崩壊したが、現在の連立政権の将来は誰も予測できない状態である。経済面においても、これまでの日本的システムが戦後の長い繁栄の間に金属疲労を来たし、雇用制度・資金調達・流通機構等あらゆる面で在来のシステムの行き詰まりが生じているが、変わるべきシステムを生み出す青写真がないままに企業業績や雇用の不安が続いている。

目を外に転ずれば、昨年暮れにシアトルにてAPEC(アジア太平洋経済協力閣僚会議)の結成が高らかに唱えられたけれども、今後の具体的展望については不確かなところが多い。NAFTA(北米自由貿易協定)を批准した米国も太平洋国家への意図は明僚にしているものの具体的に目指すところは必ずしも明らかではない。アジア国家への移行を表明しているロシアについても自国の政治経済情勢は大混乱が続いている。中国について言えば、21世紀の大国と予想される反面鄧小平後の政治体制については悲観的な見方も強い。また、中国には世界中に張り巡らされている華僑集団があり、それは必ずしも日本の強い指導力に対しては好意的であるとは言えない歴史的な沿革を持っている。米国はかつてのように日中を相争わすことに道を見出すような粗暴な政策は採らないものと思われるが、日本がとかく米国と対立しがちであるのに対して中国は基本的に親米的であり、また米国も中国に対する深い親近感を捨てたことがない。その証に今でも、中国の多くの学生は米国留学志望である。

このように今後アジアで指導的な地位を占めると予想される米国・ロシア・中国といった国柄や考え方が大きく違う国々と日本が協調的に共同体的なものを構成できるかは大きな課題であり、現実をよく見極めて適切に対応しないと日本の太平洋地域における地位は極めて不安定なものになりかねない。そのためにも日本はいかなる国かという自己の国のあり方や基本的な政策について先ず明僚に意思表示をした上で、地域の相対立する利害の調整に努めなければならないであろう。冷戦時のように親米的であることだけで世界における地位が保証されてきた時代は終わって複雑に絡み合う相互依存の世界の中で他の国々と摩擦なくやっていくことの困難さはますます増大しており、日本はいかなる国かというアイデンティティーを明確にし、これを理解してもらう努力が不可欠なものとなっている。換言すれば、日本に対してこれまで抱かれてきた「応分の国際的な責任を果たさない、自己主張が曖昧で妥協的である、経済的利益ばかり追求している」等といった古いパーセプションをここで一気に葬って、本来の日本のあり方や考え方を世界との関連で示さなければならない時を迎えている。

戦後の保守合同によって成立した自民党は、日米協調を中心に改憲と護憲、市場経済と産業保護、生産者保護と生活者重視といった相矛盾する考え方を包含しながら政権政党として長く君臨してきた。しかしながら、共産革命の恐怖に対抗して大同団結したくびきが冷戦の終焉によって開放され、逆に理念に欠ける保守政党の基盤の脆さを露呈し、更には政権政党にありがちな腐敗の暴露も相まって大きな混乱に陥っている。同じくイタリアで起きた保守政権の崩壊とこれによって招来した事態は今後の日本を考える上で大きな問題を投げかけている。もともとイタリアの経済は、日本の経済とも似て戦後比較的健全な発展をしてきたが、政治的には新聞報道等によって伝えられているとおり、理念を欠いた政権獲得のための政党の離合集散がついには左翼勢力の台頭につながり、ひいてはそれが右翼政党の突然の勃興を招く等危機的状態にある。われわれはこれを対岸の火事視せず、徹底した現実認識を踏まえて行き詰まった戦後体制の中からあるべき将来を展望する道を切り開いていくことの必要性が今ほどさし迫っている時はあるまい。まさに今年は、日本がいかなる国としていかなることをその理念として掲げるかということについて、はっきりとした具体的なヴィジョンを描かねばならない年なのである。それが出来れば、政治も経済にも明るい展望が可能となる年となろう。

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