1994年01月01日

最気対策

  細見 卓

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景気回復に対する国民の期待が強まるにもかかわらず、景気の現状は底割れのような状況を示している。不動産市場、株式市場については今なお市場に対する不安感が払拭されず、底打ち感は出てきていない。更には、企業業績の回復の遅れに伴い、ホワイトカラーを中心に雇用調整がどのように進むのかという問題が、益々深刻かつ切迫したものとなっている。

日本経済全体の生産性については、日本の経済効率は非常に優れているというこれまでの大方の見解に反して予想外に低く米国を100とすれば日本は70台くらいであるといわれている。自動車産業や電気産業等が著しく生産性を向上させてきたにもかかわらず、なお米国に比べて製造業・サービス業共に、総じて生産性の面で立ち遅れてしまっているのがどうも現状のようである。つまり、自動車や電機に代表される一部の輸出産業は著しく生産性を向上させ、それが貿易黒字の拡大、ひいては円高を進行させたが、一方では円高による輸入メリットが充分活用されないまま、規制と補助による保護の下に旧態依然とした低生産性の産業も多く温存してきてしまった。バブル全盛時のように国民の購買力が膨らみ、物の値段に対する評価が厳しくなかった時には、こうした生産性の低い産業にとっても国内に充分な市場が存在し、売上を伸ばすことも可能であった。しかしながら、バブルが崩壊し、膨張した購買力が消え去り、物の値段に対する感覚も厳しくなった現在では、もはやこうした産業は保護や規制頼りだけでは生き残れない事態を迎えている。

このような観点から経済改革研究会(通称平岩委員会)の論議においては、景気対策としての規制緩和による自由競争の促進が、主要なテーマとして取り上げられている。確かに中長期的に見れば、規制緩和によって企業活動の自由を拡大させ、産業の活性化を図ることは有効な施策であることは間違いない。しかしながら、現在の不況を克服するためとはいえ無条件かつ一挙にこのようなやり方を押し進めれば、対外競争面だけではなく国内でも優勝劣敗・弱肉強食の現象を引き起こし、弱い企業や産業は益々苦境に陥り、人員整理や倒産等による失業者の増大につながる。それは暗い不況ムードを一層増幅させるだけではなく、環境悪化等の副作用も生じかねない。日本経済が弱い部分を切り捨てて一回り大きく逞しく生まれ変わるためには、無用な規制の撤廃は避けがたいことではあるが、大事なことは、規制緩和それ自体は万能ではなく、むしろ短兵急なやり方は創造のための破壊よりもただ破壊による混乱を引き起こす可能性もあることを充分勘案し、そのための対策を事前に準備するということであろう。

生産性の高い競争力のある産業は、これまで自由競争の下に規制の少ない分野で伸びてきた訳であり、今後も自力でこの不況から立ち直れるはずである。しかしながら、いわゆる護送船団方式といった保護や規制の下に弱いままに温存されてきた産業を何の事前措置もなく一挙に規制緩和によって競争場裏の中に放出すれば、人員整理や倒産等いたずらな混乱を招くばかりであろう。規制緩和は企業活動をより自由にすることによって企業家精神を一層高揚させるものであるが、企業家精神を失いかけている弱い産業に対しては、必要な機関・組織を通じて新技術の導入指導や新資本の調達を援助する等、先ず企業家精神そのものを取り戻させ、大胆なリストラを促進させるような方策が必要ではなかろうか。その一例を挙げれば、NTTの技術を生かして米国に劣らぬ情報ハイウェイの建設を促進させ、通信やTV等に加えられている規制を撤廃し、通信と放送を統合してマルチメディア時代に備えること等が真に緊要な規制緩和であり、景気刺激効果も多大なものとなろう(詳細は当月報12月号参照)。金利引き下げや所得税減税も景気浮揚に効果があろうことは否定しないが、中長期的な観点に立って規制緩和等を通じて国民経済の活性化を押し進めながら、一方でこれに伴う反作用に対しては必要な補強策を講ずるような産業政策が不可欠であり、それこそが今求められるところの真の景気対策と言えるのではなかろうか。

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