1993年09月01日

生涯学習意欲の高まりと民間カルチャー事業

渡辺 誠

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<要旨>

  1. わが国では、急速な高齢化の進行や、中高年層の「心のゆとり」への志向、労働市場の変化を反映した若い女性や子育てを終えた主婦あるいは急速な技術の変化を反映した男性勤労者の職業学習への需要の高まり等を背景として、人々の「生涯学習」への関心が高まってきている。
  2. 生涯学習は公的機関が圧倒的に多く、いわゆる「民間カルチャーセンター」によるものは講座数で全体の2割弱、受講者数では1割程度にすぎない。公約機関と民間機関の講座には競合分野もかなりあるが、両者の特徴を活かした棲み分けもできている。例えば中高年向けの趣味や地域住民の連帯を高めるもの、介護や母親教育などは公的機関が、ビジネス関連や資絡獲得を目指す専門的なもの、趣味・スポーツでも高度な技術を要するものなどは民間機関が重点を置いているようである。
  3. しかし、種々のアンケー卜結果等をみると、生涯学習に対する潜在需要は若者向けのスポーツや趣味でも高度技術を要するもの、中高年でも職業関連、学術教養や社会問題など、専門性が高くむしろ民間が得意とする分野で強い傾向があらわれている。民間カルチャーセンターには、(1)ニーズに対応した講座の開設、(2)細かな指導、(3)最新の設備、(4)夜間・休日の開講、(5)立地の良さ、といった優位性もあり生涯学習提供主体としての重要性は今後益々高まっていくものと思われる。
  4. 民間カルチャーセンターは全国に約700ヶ所の事業所があり、受講者は約140万人に達しているが、企業規模が小さいため、(1)講師招聘料の上昇、(2)高水準のテナン卜料、(3)値上げしにくい受講料、といった業界固有の構造的な課題に、(4)公的機関との競合、(5)講座需要の多様化、等も加わり、現在のところ決して利益水準は高いとはいえない。
  5. 今後生涯学習体制を整備する中で、民間カルチャーセンターの利益率を高めて魅力ある事業とするためには、講座内容を現在の「子育てを終えた主婦層」中心から、高度な内容を求める中高年男性、あるいは職業知識を求める若年層などの需要に応えるものへとシフトさせつつ、公的機関との差別化を一層図っていくことが重要となろう。
  6. 民間カルチャー業界の市場規模(受講料ベース)は92年度で1,900億円程度と推計されるが、2000年度には標準モデルで3,700億円程度、上記の中高年男性や若年勤労者の取り込みに成功した場合には、4,300億円程度まで拡大することが予測される。
  7. 今後は人々に「身近」で「多様」な学習機会を提供するために、公約機関と民間カルチャーセンターが講座の棲み分けを進め、大学などとの提携により共存関係を築くことが重要である。また今後、公的機能を補完する役割が期待される民間カルチャーセンター事業に対し、税制面、融資面等の支媛策が実施されることも望まれる。
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