1993年09月01日

改革は始まった

  細見 卓

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先般の自民党の分裂と総選挙の結果、自民党の単独支配政権から新しく非自民の多党連立政権体制に変わった。戦後長く続いた自民党単独支配は、日本の経済発展に対し非常に大きな役割を果たし、また、外交的・国際的役割についての異論が許されなかった冷戦下において対立のない単独支配の政治体制を築き、効率の良い政治を行ってきた。この数十年に亘る体制が崩壊し、いわゆる、政界・官界・財界の鉄の三角形が崩れ、これまでの日本の政治・経済システムの本体にひびが入ってしまった。その影響するところは今の段階では充分には計り知れない。しかしながら、今回の政権交代は、TV時代のためか充分な政策論議が行われることなく、いわば、古いものを壊し新しいものを求めるという、やや感覚的な、浮ついた衝動のままに行われた感がある。新しい政権がどのような改革を指向し、どのような政策を実施しようとしているのか、国民には明らかにされないまま、変革という波に呑み込まれてしまい、いわば、帰らざる河を下ってしまったようである。

今、変革を必要としているのは単に政治の世界だけではなく、経済、社会、教育、文化等あらゆる面で戦後体制が行き詰まり、変革の必要が漸次強まっているようだ。戦後の最も成功した事例とされる日本経済の発展も対外的に抜き差しならない状況を迎えており、米国をはじめとする貿易相手国との対立は激化し、従来の日本的経済発展方式そのものについて世界的な非難が沸き起こっている。こうした動きを反映してか、今シュンペーターの思想に人々の注目が集まっている。彼の言う「創造的破壊」をおいてこの難局を乗り切る方法はないという関係者の気持ちが現れているのではなかろうか。

懸案となっている政治改革については、選挙制度改革は小選挙区比例代表並立制でまとまりそうな方向であるが、これ以外にも政治の金権体質からの脱却も重要な課題であり、やや忘れられかけているかに見える一人一票の価値の均一化という民主主義の基本的な事柄の改革も行われなければならない。それら抜きの選挙制度だけの改革では国民の満足は得られないであろう。ただし、一部で言われているごとく「新しい連立政権には政権を維持していくだけの能力を欠いている」と即断することには問題があろう。今大事なことは、古い行き詰まった制度を壊して新しいものが生まれ出る環境を作ることである。新しい政権が生まれれば、当然新しい責任が生じ、新しい抱負や識見も生まれてくる筈である。ちょうど「尊皇攘夷」という時代外れの激情的なスローガンを掲げて幕藩体制を倒し、明治維新とともに一変して開明国家への道を切り開いた事例にも見るところである。ただし、明治維新の場合と違って現在の国際社会においては破ることのできない幾つかの約束事や組織が存在しており、それらを無下に否定することは許されない義務違反になるという認識を持つことが不可欠である。

こうした観点から見て、最近の日本の外交問題で気になることがある。一つは、国連安保理の常任理事国入りがあたかも日本の決定された政策であるかのごとき動きである。このことについては、未だ国会や広く国民の間でその可否、得失等について突っ込んだ論議が行われていない。それにもかかわらず、こうした動きが一人歩きをして、国際的な論議の的になりつつあり、新政権は一日も早く日本の基本的な考え方を国民に問わなければならない。

更にもう一つは、核不拡散条約の無期限延長に対する日本の暖昧な態度が国際的な疑惑を生んでいることである。北朝鮮の核武装やミサイル開発を目の前にしてこの問題は真に日本の将来に影響する重大な問題であり、充分な内外の議論を経て方策を決定するのが当然のことではあるが、徒に態度を保留し、真意を誤解される愚は絶対に避けるべきであろう。

こうした二つの安全保障に関する問題の他にも大きな懸案事項として、先にも触れたとおり貿易摩擦問題がある。日本経済の発展と日本の貿易黒字の拡大累積によって、米国の態度は単に通商貿易問題としてこれを取り上げるところを超えて、日米の基本的な関係に繋がる問題であるとしており、放置できない事態を迎えている。更に、最近の米国政府には、今回の政権交代によって日本の経済政策について変革が起こり、従来の生産者優先から消費者中心への基本的な政策変更が行われるであろう、というような早呑み込みがあるようだ。早急に新政権はこれらに対する態度と対応策を明らかにする必要があろう。

このように対外的重要な問題については、国際社会の一員としての信頼を得られるだけの識見と一貫性が必要となっているのに対し、規制緩和、地方分権等の内政に関する問題については、日本人自身である程度自由に決められる事柄であり、これまでの自民党単独支配時代の固定観念から開放され、新しい可能性を大胆に求めていくべき時であろう。いずれにせよ、内外から日本は今こそ変革を強く求められているのである。

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