1993年05月01日

戦術的アセット・アロケーション -市場環境の変化に伴う資産運用手法の変革-

  津田 博史

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<要旨>

  1. 1980年代後半のバブル時代の終焉とともに、日本の株式市場は急落し、多くの金融機関や事業会社が損失を蒙り、資産価格変動の不確実性を再認識するとともに、資産運用におけるリスク管理について早急な対応が迫られている。しかし、このような状況に対して、従来のように単に主観的な判断に基づいた方法によって資産運用を継続していくには、もはやその信頼性や運用効率の面で限界が顕著になってきている。そこで、最近の急速なコンピューター・通信の技術革新に伴って、計量分析に基づいた方法により資産運用を行うことが重要視されつつある。
  2. 計量分析に基づいた資産運用手法の中でも、1987年10月のブラック・マンデー時をはじめ米国において既に華々しい成果を納めてきた運用手法である戦術的アセッ卜・アロケーション(Tactical Asset Allocation、略してTAA)が、90年代に入り日本においても脚光を浴びてきている。TAAは、最近、異なる概念に基づいた複数の方法が考案されているが、本稿では、現在米国において主たる手法となっている市場のミスプライス是正メカニズムに立脚したTAAをとりあげ、その基礎概念、その概念を踏まえたモデル推定、及び、シミュレーションによる検証を通してその有効性を検討した。さらに、TAAを国際分散投資へと発展させたグローパルTAAの重要性も考察した。
  3. TAAは、基本的には株式や債券などの資産の将来の実績リターン(実績収益率)、または、それらの実績リターン格差を市場のミスプライス是正メカニズムを利用したなんらかの方法によって予測し、その予測値に基づき資産の配分比率を機動的に変更していくアセット・アロケーション手法である。本稿では、資産間の実績リターン格差を計量モデルによって予測するアプローチを試みた。
  4. TAAが前提とする市場のミスプライス是正メカニズムは、各資産に対する期待リターン(期待収益率)を反映した利回りの間(イールド・スプレッド)にはそれぞれの資産のリスク・プレミアムに応じて一定の均衡関係が存在し、何らかの要因でその均衡値から乖離(ミスプライス)が生じた際には、市場ではそれを均衡水準に戻そうとする資産価格変化が生じるというメカニズムである。
  5. TAAの運用パフォーマンスの良否は、基本的には資産間の将来の実績リターン格差を予測する計量モデルの予測精度に依存している。その計量モデルで用いる各資産の利回り間の均衡水準、及び、それからのミスプライスの変動構造をどのように推定するかが重要なポイン卜である。本稿では、それらの推定方法として新しい方法(状態空間モデル)を用いたアプローチを試み、市場のミスプライス是正メカニズムに対して有益な実証結果を得ることができた。
  6. TAAは、優れた運用パフォーマンスを得る可能性を秘めた運用手法であるものの、反面、短期間で成果が出るとは限らないことを忘れてはならない。また、1つの方法だけに依存することは危険であることから、実際の運用で使用する場合には積類の異なるモデルやアセット・アロケーション関数、もしくは、アプローチが違うTAAを併用してリスク分散を図ることが重要である。さらに、グローパルTAAを実施することにより、一国のTAAよりも安定した収益を得ることが期待できょう。
  7. TAAをはじめとして計量分析に基づく運用手法は、データを客観的に観測してシステマティックに資産配分を決定するため、主観的な判断に基づく方法に比べて運用上の意思決定が容易であり、また、客観的な方法であるがゆえに、事後的な運用パフォーマンス評価や要因分析を通して手法の信頼性を高めることができる。
    従って、今後、経済・金融の国際化と自由化が一層進展し、運用機関を取り巻くリスクが多様化、複雑化していくことが予想される中では、計量分析に基づく運用手法への取り組みが、リスク管理と運用効率の改善に向けての戦略の要になるものといえよう。

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