1993年04月01日

経済の動き

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<米国経済>

92年10-12月期の実質GDP(暫定値)は前期比年率4.8%と速報値と比べ1ポイントの上方修正となった。これは輸出等が資本財輪出を中心に上方修正されたほか、個人消費も若干上方修正されたことによる。この結果、92年の実質GDP成長率は2.1%となり、景気は持続的な回復傾向にあることを示している。 生産部門をみると、1月の鉱工業生産は前月比0.4%と4ヵ月連続で増加しており、耐久財受注も昨年12月に前月比9.6%と高い伸びを示した後、1月は予想通りの反動減で同▲1.7%と小幅な減少にとどまった。加えて、長期金利も2月末には7%台を下回る水準まで低下しており、企業の生産・投資活動を取り巻く環境は、概ね良好と判断される。

家計部門の指標では、1月の実質消費支出は前月比▲0.1%の減少となった。ただし、12月の伸びが同0.4%から0.8%と大幅に上方修正されたことを勘案すると、1月の小幅減が個人消費の低迷を示すものとは考えにくい。足もとの実質可処分所得の伸びが前年比2%台と依然として低い水準にあること、貯蓄率も低水準(12月4.5%)であることを考え合わせると、当面の個人消費は緩やかな伸びにとどまろう。

物価動向については、12月の消費者物価は総合で前月比0.5%(エネルギーと食料品を除くコア部分も同0.5%)と高い伸びとなった。内訳をみても、衣料品、運輸関連、医療費が高い伸びを示す等、全般的な上昇を示している。ただし、1月は季節的に上振れする傾向があること、今後の景気が持続的に潜在成長率を上回って推移することが難しいと予想されることから、物価は基本的に安定基調にあるとの見方に変更はない。

足もとの長期金利(国債30年物利回り)は、2月末にかけて7%台を下回る水準まで低下した。これは新大統領の財政政策(増税と歳出削減による中長期的な財政赤字の削減)を受けての推移と見られるが、やや下げ過ぎの感が否めない。今後の長期金利については財政パッケージの議会審議動向を見極める必要がある中、一時的に6.5%程度まで低下することもあり得るが、基調的には7%前後での推移が続くと予想される。金融政策については、93年は物価安定が続く中、財政からの景気刺激策もあって景気が緩やかな拡大を持続するものの、94年には確実に財政政策(増税と歳出削減)によるデフレ効果が予想されるため、93年中は公定歩合、FFレートとも現状横這い(ともに3.0%)に据え置かれるとみられる。

なお、2月17日に発表されたクリントン大統領の財政赤字削減計画は、(1)短期的な景気刺激策、(2)生産性向上のための長期的な公共投資、(3)大規模な増税と歳出削減による赤字削減を大きな柱としたものである。今後、まず景気刺激策を優先させ、その後景気デフレ的な増税、歳出削減措置を実施するとみられるが、実施時期については不透明な点もあり、「議会審議→通過→実施」の経過を慎重に見守る必要があろう。



<日本経済>

景気は引き続き後退している。大企業・製造業を中心として設備投資が大幅な減少を持続、所得の伸びの低迷や消費マインドの悪化など消費でも停滞色が強まり、(1)設備等のストック調整、(2)資産価格(地価、株価)の低迷、(3)家計・企業のリストラの動きを通じた需要下押し圧力が続いている。雇用面をみても、需要低迷の長期化から全般的に企業の雇用過剰感等が高まっている。現状では、雇用調整は残業規制や中途採用抑制といったマイルドな手段が中心であるが、今後、後退が一段と深刻化し長期化するようだと、次第に配置転換や人員削減などが増加せざるをえないだろう。

次に足もとの経済指標をみると、生産・在庫面では、93年1月は鉱工業生産指数が前月比▲0.3%と引き続きマイナスとなった一方で、出荷指数が同1.3%と昨年9月以来のプラスを示した。これにより在庫指数は121.8、在庫率指数も112.4と前月からやや低下したが、双方ともレベル自体は依然として高い。また、昨年12月の製造工業稼働率指数は91.7と86年11月(91.5)以来約6年ぶりの低水準である。

消費をみると、92年12月の家計調査では実質家計消費支出(全世帯)が前月比▲2.9%と3ヵ月連続のマイナスとなった。財・サービス区分別では、サービスへの実質消費支出は前年同月比2.4%と増加したが、商品の内、耐久財(同▲7.9%)や半耐久財(同▲3.4&)での落ち込みが大きい。大型小売店販売額(店舗調整済)も昨年12月の前年同月比▲5.7%に続き1月は同▲3.0%と低下傾向が続く。所得・雇用面に関しては、1月の有効求人倍率、完全失業率はそれぞれ0.93倍、2.3%と前月からやや好転を示したが求職者数の減少によるもので基調は弱い。1月の就業者数の伸びは前年同月比0.5%、雇用者数は向1.8%と低水準にあり、勤労者実収入および可処分所得は昨年12月に名目で前年同月比▲2.4%、同▲2.8%と共にマイナスに転じた。

設備投資は、1月の建設工事受注(大手民間50社ベース)が、民間で大型プロジェクトが発注されたこと、および宮公庁の発注が増加(前年同月比60.1%増)したことから10ヵ月振りに前年同月比でプラスとなった(7.6%増)。ただし、民間の受注高は前年同月比▲6.0%と低迷、大型プロジェクト(東京・錦糸町駅北口再開発事業、総額1400億円)を除くと前年同月比で約2割近い減少となり、依然としてマイナス基調に変わりはない。機械受注は昨年12月に前年同月比▲6.9%と9ヵ月連続のマイナスとなった。

住宅投資は、新設住宅着工戸数が昨年12月に年率換算139万戸、1月には同137万戸とややピークアウトの気配がみられる。物価面は、1月の総合卸売物価指数が前年同月比▲1.0%、消費者物価指数も同1.2%増と共に安定した推移が続いている。

最後に国際収支をみると、内需の弱さを反映した輸入の伸び悩みから経常黒字の拡大傾向が続いている。1月の経常収支は年率換算1068億ドル、貿易収支が同1284億ドルと依然高水準を維持している。



<ドイツ経済>

西独では、92年下期以降、高金利による内需低迷、欧州景気不振による外需悪化から景気は急速に悪化している。ドイツ連銀によると、92年10-12月期の西独の実質GNPは▲1.2%と前期(▲1.3%)に続き、大幅なマイナス成長となった。物価面では1月のVAT(付加価値税)増税(税率引き上げ14%→15%)の影響もあり、消費者物価は今年に入り前年同月比で4%台の高い伸びが続いている。国際収支については、欧州景気の不振やマルク高の影響による輸出の低迷から足もとの貿易収支、経常収支はともに悪化している。金融面をみると、2月4日ドイツ連銀はドイツの政策金利である公定歩合、ロンパード金利の引き下げに踏み切った(各々8.25%→8.0%、9.5%→9.0%)。この他、預金準備率の引き下げや期間3、6、9ヵ月物の流動性証券の市中売却も決定された。これらの措置は各々、国内金融市場の競争力向上、連銀の政策運営能力の向上を目的としている。



<イギリス経済>

イギリスは90年末からの景気後退局面から依然脱出しきれていない。92年の実質GDP成長率(速報値、生産ベース)は▲0.5%と前年(▲2.2%)から2年連続のマイナス成長となった。ただ、足もとの経済指標をみると、テンポは緩やかであるものの、景気は改善する方向にあるといえよう。物価面では、景気後退から小売物価上昇率は鈍化しており、1月の前年同月比は1.7%と、約25年振りの低水準となった。ただし、生産者投入物価にはポンド切り下げの影響から、昨年末以降急伸している。今後はこうした輸入物価面での上昇圧力が国内物価に波及することが懸念される。

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