1993年04月01日

地域主義かグ口ーバリズムか

  細見 卓

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自由貿易推進のための大きな枠組みであるガット、ウルグアイ・ラウンドの交渉については、米国議会の一括承認手続き(ファスト・トラック)の期限が5月末に切れることからその延長が必至の状況であるが、その前途はまったく予断が難しい。何故米国議会での一括承認手続きが新ラウンド妥結にとって不可欠であるかはよく知られていることではあるが、米国の通商条約締結の権限は全面的に議会にあり、議会からの授権によってのみ大統領は国際交渉を行うことができ、従って議会での一括承認手続きなしでは米国政府は交渉相手国との条約・協定の締結は実際上不可能であるということである。

望むべきは延長される新期限までに早急にラウンドを合意させることであるが、伝えられるところによればクリントン政権はその延長期限を9ヵ月にするといわれ、これから9ヵ月もかけて既にほぼ合意している事柄についてももう一度検討となれば、様々な不都合や圧力が各方面から出てくることは明らかである。いうまでもなくクリントン政権の対外貿易政策はブッシュ政権のそれを全面的に踏襲するものではなく、何事も米国の立場に立って、有利か不利かを見直すという非常に現実的かつ米国本位の考え方であるように見える。

一方、欧州は統合の気運に水をさされ、内外の政治経済問題を抱えており、ラウンド妥結への積極的な関与はとても望めそうにもない。わが国は世界的な自由貿易体制の存続が必須の存立条件であるにもかかわらず、国内的な認識不足と政治的リーダーシップの欠如で身動きが取れない。加えて年間一千数百億ドルの黒字を抱える唯一の国というハンデを背負っており、よほど積極的な分担と自己犠牲を申し出ないと日本は先進国の地域主義化の中で孤立する可能性も生じよう。既に欧州はその傾向が強まっており、米国も北米自由貿易協定締結によって地域主義が勢いを増している。アジア諸国がこうした動きから地域的な取り決めに依存した閉鎖的な貿易体制の中に押し込められる危慎もある。そもそも欧州の経済統合や北米自由貿易協定は歴史的、地域的な必然性と妥当性を合わせ持ったものであるように見える。それに比べるとアジア地域の経済発展は確かに世界に冠たる素晴らしいものであるが、それは日本を含めてどの国も開発主義的なやり方による成功であり、米国や欧州という製品の受入れ貿易相手があっての話であった。従ってアジア地域が地域主義的な経済統合を進め、域内貿易をより活発にするとすれば日本が北米自由貿易協定に移行する米国や欧州に代わって域内の大口製品受入れ国にならなければ地域の発展は期待できないであろう。先端技術による更なる工業化を進め製品輸出を拡大するアジア諸国に対し、日本はこうした輸出を吸収し相互依存関係を拡大強化していけるだけの開放された市場をはたして提供することができるのか大きな問題である。現在日本は長引く不況によって国内の供給力が過剰となり、その解消が困難な状況にある。その日本が更に国内の生産を減らしてでもアジア諸国からの産品に対し門戸を開放できるかは甚だ疑問といえよう。コメの輸入を一つとっても国をあげての騒ぎとなるような国が、アジア諸国からの様々な製品の輸入によって多くの中小企業が国内市場を失うような打撃に耐えうる覚悟があるようには残念ながら見えない。

欧州や北米から除外された形でアジアでの地域主義を押し進めることは、多くの困難をともなう現実性のない動きである。アジアに友人を求めようとする日本ではあるが、域内からの製品輸入の期待に十分応えられないとすれば、アジア諸国はその不満を募らすことになろう。更には北朝鮮、中国、カンボジア等の混沌とした状況を考えるとアジアの安全保障問題は世界で最も不安定なものであり、米国を含めた自由世界からの支援を得てこの地域での総合的な安全保障の枠組みを確立することは、日本の存続にとって不可欠の問題となっている。そのためにはアジア市場が地域的・排他的なものにならず、開かれた世界貿易体制の中で米・欧の参加を求め、栢互に発展する自由が必須であろう。ブロック化した排他的なアジア第一主義といった考え方は、日本としては絶対に避けて通らなければならない道である。世界的な政治経済の手詰まり状態といえる今こそ自由貿易体制システムの危機脱出に向けたわが国の決断と犠牲が求められている。

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