1992年10月01日

経済の動き

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<米国経済>

92年2Q(4-6月期)の実質GDP成長率(一次改定値)は、速報値と比べ需要項目別の内容に大きな変化はなく、在庫投資が上方修正、純輸出が下方修正となり、結果的には速報値と同じ前期比年率1.4%となった。また、月次の指標をみると、6月の指標には景気の足踏み状況を示すものが多かったものの、7月分は生産、小売売上等、増加を示すものが増しており、緩やかな景気の回復基調が続いている。ただし、消費者マインドやマネーサプライの低迷や8月の非農業部門雇用者数が減少するなど、景気の回復力は依然として弱い状況にある。

今後については、(1)これまでの累積的な金融緩和、(2)家計・企業の負債調整、バランス・シートの改善、(3)住宅投資の回復基調、(4)在庫の積み増し等から緩慢ながら持続的な回復が続くと予想される。

なお、今回のフロリダ等南部を襲ったハリケーン「アンドリュー」による被害額は、最高で300億ドル(名目GDPの約0.5%に相当)にのぼるとの試算(米連邦緊急管理局)もある。短期的には、農作物への被害、建築物の破壊と在庫ストックの喪失、生産と雇用の減少、個人所得(家賃収入)や観光収入の減少等様々な影響が考えられ、景気に対しでも一時的ではあるが、マイナスの効果があるものとみられる。

物価については、7月の消費者物価は前月比0.1%、食料とエネルギーを除いたコア部分は0.2%(6月0.2%)と落ち着いた動きとなっている。単位労働コスト上昇率は低下傾向にあり、製品需給面も設備稼働率が78.9%(7月)と懸念すべき水準にないため、当面、物価安定基調が続こう。

金融政策については、9月4日雇用情勢の悪化を主因に、FRBはフェデラル・ファンド・レートを0.25%引き下げて公定歩合と並ぶ3.00%とした。

以上のような景気・物価動向を踏まえると今後ももう一段の金融緩和の可能性は排除できないものの、基本的には金利引き下げは最終局面にあるものとみられる。



<日本経済>

日本経済は、在庫調整の遅れ、資産価格の低迷を背景に、景況感は一段と悪化、国内景気の後退がより鮮明になっている。現状、民間設備投資は大企業・製造業を中心として調整色を強めている。また、雇用・所得環境の悪化から、個人消費にも減速傾向が認められる。こうした状況の下、実体経済へのてこ入れ、金融機関における「しこり」の解きほぐしを目的として、政府による総合経済対策が決定された。今回の対策は、事業規模10兆7千億円という過去最大の内需拡大策に加え、金融機関の不良資産処理問題、株価対策など金融システムの安定化策が盛り込まれ、大型の景気対策となる。

足もとの経済指標をみると、7月の鉱工業生産指数は前月比0.3%のプラス、製品在庫率指数も107.6とほぼ横這いであった。ただ、生産指数は91年10-12月期以降3四半期連続の減産にもかかわらず、在庫率指数自体は依然として高水準を維持し、在庫調整は長期化している。この背景には最終需要の伸び悩みがある。最大の需要項目である個人消費をみると、インフレの改善、金利低下によるプラス効果を、雇用、所得面の環境悪化が相殺する形で、消費者マインドは低調となっている。4-6月期の実質消費支出(全世帯)は、前期比▲2.1%とマイナスをつけた。サービス支出は堅調であるものの、耐久消費財を中心に財への支出が大きく減少したことが原因である。乗用車新車登録台数は7月前年同月比▲7.8%の減少、また大型小売店販売(店舗調整済)も同0.3%増と低調な推移をしている。一方、所定外給与は、7月で前年同月比▲11.5%減と15ヵ月連続のマイナス、就業者数も同0.6%増と伸び悩んでいる。次に、設備投資の動向をみると、先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は、6月前年同月比▲19.2%減、民間建設受注(大手50社)は、7月同▲26.3%減と、1-3月期の前倒し需要からの反動という側面もあるが、4月以降依然として二桁マイナスの低迷状態が続いており、基調は弱いと判断される。

住宅投資については、新設住宅着工戸数が早期に回復傾向を示し、年初以来6月まで年換算140万戸前後の水準が続き、7月には同145万戸と増加した。7月は分譲住宅が前月比で増加、全体の増加要因として寄与した。また、今度の総合経済対策では、住宅金融公庫等の融資枠拡大など住宅投資促進策がとられることになっており、今後、プラスの効果が出てこよう。一方、公的需要についても、総合経済対策で92年度の公共投資等の追加が5兆円強予定されている。補正予算成立の時期が10月末以降となることから、年度内の消化には一定の限度があるものと予想されるが、民間内需が弱いなか、内需の牽引役として期待される。

最後に、国際収支の動きをみると、経常収支の黒字額は引き続き拡大している。内需低迷による輸入の低い伸びに加え、円高傾向や、投資収益の構造的な黒字拡大が寄与しており、7月の経常黒字は、年換算で1150億ドル超と史上最高のペースが続いた。



<ドイツ経済>

旧西独(以下、西独)では、91年春頃からの、景気の調整局面が持続している。4-6月期の西独の実質GNPは、前期比▲0.3%のマイナス成長となった。物価面についてみると、8月の消費者物価は前期比伸び率0.4%(年率4.4%)となり、5月からの鈍化傾向はやや後退した。また、前年同月比でも3.5%と、ドイツ連銀にとって依然、不満足な水準にある。国際収支については、92年4-6月期の貿易収支は、69億マルクの黒字、経常収支は▲99億マルクの赤字となり、92年1-3月期(各々、56億マルク、▲122億マルク)からやや改善した。



<イギリス経済>

イギリスでは、90年半ば以降の景気後退局面が依然、持続している。4-6月期の実質GDP(速報値)は前期比▲0.1%のマイナス成長となった。7月のCBI(英産業連盟)による企業調査結果も景況感の一層の悪化を示している。物価面については、7月の消費者物価上昇率は、前年同月比3.7%と、6月(3.9%)を下回り、落ち着いた推移が続いている。この背景としては、商品価格の低下や雇用調整の進展による、労働コスト圧力の緩和から等があげられる。国際収支面では、輸出を上回るテンポで輸入が拡大しており、貿易収支、経常収支ともに赤字が続いている。4-6月期の貿易収支は▲32億ポンド、経常収支は▲26億ポンドの赤字となった。

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