1992年01月01日

経済の動き

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<米国経済>

7-9月期の実質GDP(暫定値)は前期比年率1.7%のプラス成長となった。商務省は今回からGNPではなく、GDPを重視すると同時に、87年基準の新ベースを採用する方針を明らかにしている。今回の発表内容をやや詳しくみると、個人消費・設備投資とも下方修正されており、最終需要も▲0.9%と景気は依然として低調であること、積極的な景気牽引役が見当たらない状況であることを確認する内容となった。

生産関係の指標をみると、10月の鉱工業生産は前月比0.0%と横這いで推移、設備稼働率も79.6%と7月の80.0%からほぼ横這いで推移している。

家計部門の指標をみると、10月の実質可処分所得は前月比0.1%、実質消費支出は同▲0.4%となり、個人消費の回復が遅いことを裏付ける内容となった。消費の内訳をみると、サービス支出が堅調に推移しているものの、耐久財、特に自動車購入の落ち込みが消費の伸びの足を引っ張る形になっている。さらに、消費マインドを表す消費者信頼感指数が11月に50.6と前月比で約10ポイントも減少しており、米国GDPの約67%(90年)を占める消費支出の回復は引き続き楽観できない状況にある。また、11月のNAPM景況指数も50.1%と好不況の分岐点である50%をかろうじて上回ったものの、米国経済全般を取り巻く景況感は依然として底ばい状態にある。

一方、物価動向については10月の生産者物価が総合で前月比0.7%、コア部分が同0.5%と予想外の高い伸びを示した。しかし、その後発表された10月の消費者物価は総合、コアとも前月比0.1%と落ち着いた動きを示しており、10月の生産者物価の上昇は統計上の技術的要因が少なからず影響したものと考えられる。今後の物価動向については、先月と同じく安定基調が続くとみられる。

FRBは11月6日に公定歩合を0.5%引き下げて4.5%(FFレート4.75%)とした。しかし、公定歩合が18年振りの低水準にあるにもかかわらず、長期金利の低下橋は小幅に止まっており、昨年以降の「長期金利の下げ渋り」傾向は続いている。さらに商業銀行は不良資産の圧縮等、バランスシートの改善に努めている状態にあるため、商業銀行の個人・商工業向け貸出は依然、慎重姿勢を堅持しており、米国経済を取り巻く金融環境は景気刺激的なものとなっていない。

また、米国経済全体の負債残高の水準も、80年代の長期にわたる景気拡大期に急激に上昇した。現在の米国経済は銀行部門だけではなく、個人・企業・政府の各経済主体ともバランスシートの改善のための苦しい調整局面の最中にあると考えられる。



<日本経済>

○景気の減速が持続

日本経済は減速傾向を持続している。実質GNPの成長率を前期比でみると、90年10-12月期1.0%、91年1-3月期2.0%と推移した後、4-6月期は0.7%、7-9月期は0.4%となっており、住宅投資の減少や設備投資の低迷を中心に減速傾向が持続している。これを反映して鉱工業生産指数も91年1-3月期以降不振状態となっており、10月も0.4%の低下となった(前年同月比でも▲2.0%と、4年5か月ぶりの前年割れ)。生産予測指数は11月が0.3%上昇、12月は1.6%上昇となっているが、在庫の積み上がり状況も勘案すれば、今後も生産は低迷を続けよう。

需要面から関連指標を見ると、まず住宅では10月の新設住宅着工戸数は引き続き前年比で2ケタ減少(▲25.5%)。戸数の水準(季調済・年率)は3月以降140万戸前後で横這いとなっていたものが8月に同130万戸と落ち込んだ後、9月は同127万戸、10月は問126万戸と低迷している。

設備投資関連の受注統計は、概ねマイナス基調で推移している。機械受注(船舶・電力を除く民需)は前年同月比で7月▲1.0%、8月▲6.5%、9月▲1.6%とマイナス基調で推移している。

消費面では、大型小売店販売額は前年同月比で9月は4.7%増、10月は5.4%増と堅調に推移している。


○雇用情勢は穏やかに緩和の方向へ

労働需給は依然逼迫しているものの、有効求人倍率(季調済)は景気減速を反映して足もと10月は1.33倍へ低下した(7-9月期平均は1.38倍)。景気減速は、労働時間(所定外)の減少から、このように求人段階にまで波及しつつあるが、雇用者数は未だ堅調に増加している。


○物価は基調的に安定

国内卸売物価上昇率は前月比で9月は▲0.2%、10月も▲0.2%と足もとの瞬間風速でも下落基調を示している(なお、前年同月比では0.2%上昇)。消費者物価(東京都区部)は11月の東京都区部が前年同月比で3.7%上昇と、10月の同3.2%と比べて上昇率が高まっている。これは、生鮮野菜が台風や長雨の影響で同42.5%も上昇したことが主因。石油製品と生鮮食品を除いたコア部分は、全国・東京都ともに3%弱程度の上昇率(東京都区部の11月は2.7%上昇)での高止まり傾向が持続しているものの、低下方向にある。


○貿易・経常収支黒字幅は高水準

貿易黒字は高水準・横這いで推移している。8-10月をみると季調済・年率で1150億ドル前後の推移である。また、経常収支の黒字も同様であり、8-10月の推移は季調済・年率で700-900億ドルとなっている。



<イギリス経済>

イギリスの92年7-9月期の実質GDP成長率(生産ベース)は、前期比0.3%となり、90年4-6月期以来初めてプラスの伸びとなった。これにより90年末からの今回のリセッション局面は終了したとみられる。消費関連の経済指標を中心に景気回復傾向が現れており今年7-9月期の小売売上数量は前期比0.8%となり、4-6月期(同▲0.8%)より改善している。物価動向についてみると、小売物価(消費者物価に相当)は、昨年8月からの原油価格高騰による物価押し上げ効果の一巡から、8月以降、前年同月比は低下傾向にあり、7月の5.5%から10月は3.7%にまで低下した。経常収支の改善傾向は一段落している。10月の経常収支は▲6億ポンドの赤字と、7-9月期の月平均から横這いとなった。これは、国内の消費回復に伴う輸入増加により、貿易収支の改善傾向が足踏み状態にあることが主因である。



<ドイツ経済>

旧西ドイツ地域(以下、西独)では景気の減速傾向が明確化している。10月の鉱工業生産は前月比▲1.0%となり、7-9月期(前期比▲0.5%)より悪化した。また、消費関連の指標をみると、7-9月期の小売売上数量は前期比▲2.4%と4-6月期(同▲1.1%)よりさらに減少している。ドイツ政府の経常収支諮問委員会(五賢人委員会)がこの程発表した年次経済報告によると、西独の実質GNP成長率は91年の3.5%から92年には2.0%に減速する見込みである。物価面をみると、消費者物価に相当する生計費は、昨年8月からの原油価格高騰による物価押し上げ効果の一巡から、8月以降、前年同月比は低下傾向にあった。しかし、こうした特殊要因も徐々に弱まり、11月の上昇率は4.1%と10月(3.5%)より上昇した。国際収支については、7-9月期の経常収支は▲11億マルクと4-6月期から横這いとなった。貿易収支は改善したものの(4-6月期▲7億マルクの赤字、7-9月期39億マルクの黒字)、旅行支払いを中心にサービス面での支払いが増加したことが、経常収支悪化の原因である。

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