1991年12月01日

自動車を取り巻く環境問題の高まり

石尾 勝

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<要旨>

  1. 自動車を取り巻く社会的な問題が強まっている。中でも自動車への環境規制強化の動きは大きな問題である。環境保全問題への取組みは、国民生活や経済活動全般にわたるテーマであるが、とりわけ自動車産業にとっては緊急かつ深刻な課題である。
  2. 現在の自動車に対する環境問題は、従来からの課題である大気汚染や騒音、振動に加え、排気ガス中のCO2の抑制、特定フロンガスの使用禁止、廃車のリサイクル化、などが注目されている。こうした動きの背策には、昨今の地球レベルでの環償保全意識の高まりが指摘できる。
  3. 地球温暖化防止の観点から、CO2を抑制するため自動車の燃費改善や代替エネルギー車の開発などが求められている。燃費改善は省エネ・雀資源の観点に加えて、CO2の抑制の点で地球温緩化防止に有効な対策であり、米国を中心に再び燃費改善へ向けた規制強化の動きが強まっている。日本車の燃費効率は現在、世界で最も高い水準にあり、更なる改善には多大な努力を要しよう。
    燃費改善のための技術的対策としては、(1)アルミ・FRPなどの素材使用による車体の軽量化、(2)エンジンの改良による燃焼効率向上、(3)走行抵抗の低減化などがあげられる。
    さらに車体の「ダウンサイジング」こそが燃費改善には最も効果的であると言えるが、ユーザーニーズの方向などを考えるとそれへの移行は容易ではない。
  4. NOxなどの排気ガスに関しては、70年代後半以降内外で規制が強化され、自動車一台ごとのクリーン度は改善されてきたにもかかわらず、大都市部中心に大気汚染が悪化する傾向を示している。
    わが国におけるこの理由としては、(1)自動車総数自体の増大、(2)景気の拡大、物流の活発化などによる自動車交通量の増大、(3)ディーゼル車使用の増加、などがあげられる。
    このため、排ガスに対する規制に関しても、(1)排ガスの総量規制、(2)自動車の車種構成のより低公害車種へのシフト、(3)交通手段の自動車から他の手段への転換、など新しい方向性が加わってきている。米国カリフォルニア州では1998年以降一定台数の電気自動車販売を事実上義務付ける規制が昨年成立したが、こうした規制の新しい方向性は自動車社会の構造自体に大きなインパクトをもたらす要素を含んでおり、十分注意していく必要がある。
  5. 代替エネルギー車の利用は、(1)CO2や有害排気ガスの抑制、(2)石油資源の節約、(3)エネルギー利用効率の改善などにも有効な手段である。中でも電気自動車は、走行による有害排気ガスの直接排出は一切なくクリーンな車である。しかし、一般的な普及はほとんど進んでいない。
    電気自動車普及のためには、(1)走行性能の向上、(2)製造コストの低減、(3)電気補給スタンド設置などのインフラ整備、の3点があげられるが、これらに対しては政策的な支援が望まれる。わが国で先頃発表された「電気自動車普及基本計画」は、電気自動車普及に関する問題点を総合的に分析し、長期的な普及目標台数を設定している。米国でもビッグスリーとエネルギー省との電気自動車に関する共同研究開発計画が打ち出されている。
    我々ユーザーとしても代替エネルギー車を社会システムの一部、日常生活を構成する要素の一つとして今後積領的に受入れていく姿勢が必要であろう。
  6. 自動車保有台数が急増するとともに、廃車数も大幅に増加しており、廃車の効率的な回収処理の必要性と、使用素材のりサイクル化への要請が高まっている。わが国の廃車処理の現状をみると、処理能力の不足と処理コストの上昇、ダストの最終廃棄場所の不足、廃車路上放棄の増加などが問題となってきている。
    廃車リサイクル化への生産サイドの技術的課題としては、(1)車体へのリサイクル素材の積極的使用、(2)解体とリサイクルが容易な生産システムの導入、などがあげられる。
    そもそも、リサイクル化の基本的な方向は、リサイクル可能な素材の積極的使用とともに社会的なリサイクルシステムの構築にある。自動車業界だけでなく一般ユーザーや行政も含めた社会全体の問題として、リサイクルシステムの構築に取り組む必要があり、我々一人一人がリサイクルの重要性とコスト負担への理解を高めることが大切である。
  7. 自動車の環境問題に関しては、さらに次の2つの視点に留意する必要がある。第1には、環境問題の解決策は互に背反する方向を含んでいたり、環境問題以外の他の課題の解決策と矛盾する場合があることである。例えば、車体の軽量化は素材選択に注意しないと廃棄物公害を生み出すことになるし、安全性確保の問題とも矛盾する懸念がある。
    第2に、環境問題の克服は個別的解決策では限界があり、社会システムを睨んだ総合的な対策の導入が必要となっていることである。例えば、排ガスによる大気汚染の悪化や実走行時の燃費の低下は渋滞の悪化が影響している。そこでは道路整備、物流システムの合理化といった社会的な総合的取組が不可欠である。
  8. 環境保全に関する「社会的費用」を市場内部に取り込み、価格メカニズムを働かせることは環境問題の解決にとって有益であり、この点で自動車の「社会的費用」に対しても適切な対応が期待される。こうした状況の中、自動車産業は経営構造を「効率の追求」から「環境との調和」へと転換していかざるを得ない。直面しつつある困難は大きく、内外の企業間の優劣格差や淘汰の動きが強まることも予想されるが、またそれは新たな技術進歩や市場拡大の源ともなりうるものである。
    つまるところ、環境に優しい自動車社会の構築は我々全員の課題であり、次世代に対する義務でもあるということを充分に認識する必要がある。
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