1991年12月01日

経済の動き

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<米国経済>

7-9月期の実質GNP(事前推計値)は前期比年率2.4%のプラス成長となり、景気の緩やかな回復基調を裏付けた。但し、その後発表された月次統計から判断すれば、足下の景気回復力は依然として弱く、積極的な景気牽引役が見当たらない状況が続いている。10月の雇用統計は、失業率が前月より0.1%上昇し6.8%となり、非農業部門雇用者数は前月比▲1千人と僅かではあるが3ヵ月振りに減少した。雇用者数の内訳をみると、財生産部門(製造業)の悪化や狭義のサービス業を除く民間サービス部門(小売業等)の低迷が目立っている。

生産関係の指標をみると、9月の鉱工業生産は前月比0.1%と横遣いで推移、設備稼働率も79.7%と7月の80.0%からほぼ横這いで推移している。一方、9月の製造業新規受注は前月比▲1.7%と2ヵ月連続でマイナスを記録しており、今後の生産動向には注意が必要である。

家計部門の指標をみると、9月の実質可処分所得は前月比0.2%、実質消費支出は同0.6%となり、所得に比べて消費の伸びが目立つ結果となった。但し、新モデルの導入に伴う新車販売の一時的増加の影響も大きく、さらに消費者マインドが急激に落ち込んでいるなど、実勢は弱いと判断せざるを得ない。

物価動向については、9月の生産者物価は前月比0.2%、コア部分も前月と変わらず落ち着いた動きを示した。消費者物価は総合、コアとも同0.4%と若干高い上昇率を示したが、これは主に住宅関連の上昇によるものであり、住宅部門の低迷を考慮した場合、今後も持続的な上昇傾向が続くとは考えにくい。先月に指摘した要因から、今後も物価動向は落ち着いた動きを示すものと予想される。

FRBは10月30日にFFレートの目標水準を0.25%引き下げたあと、11月6日には公定歩合を0.5%引き下げて4.5%(FFレート4.75%)とした。公定歩合の引き下げは前回から2ヵ月弱しか経っておらず、景気が予想以上に弱いことを受けたものであると考えられる。但し、今回の短期政策金利の引き下げにもかかわらず、昨年以降の「長期金利の高止まり」傾向に変化はなく、景気刺激効果は限られるものになるとみられる。長期金利高止まりの大きな要因としては、巨額の財政赤字を賄うための国債大量発行を挙げることが出来よう。91会計年度の財政赤字額は過去最高の2687億ドルであったが、92会計年度は更に赤字が拡大する見込みである。10月、米議会では景気刺激策として減税論議が活発であったが、ブッシュ大統領は長期金利への影響を考慮し、減税案の年内成立には反対を表明(11月15日)している。この様に、財政政策が手詰まりであるなか、FRBの金融政策に対する行政府・議会からの政治的圧力が近年になく高まると予想される。



<日本経済>

○景気の減速が持続

日本経済は減速傾向を持続している。鉱工業生産指数は弱含んでおり、9月は0.2%の上昇にとどまった。生産予測指数は10月が2.6%上昇だが、11月は1.8%低下となっており、また最近の実現率が1年近くマイナスとなっていることから、生産は低迷を続けよう。一方、製品在庫は大きく積み上がっており、在庫率指数も上昇基調にある。

需要面から関連指標を見ると、まず住宅では9月の新設住宅着工戸数は引き続き前年比で2ケタ減少(▲26.6%)。戸数の水準(季認済・年率)は3月以降140万戸前後で横這いとなっていたものが、8月は同130万戸、9月には同127万戸と一段落ち込んだ。

設備投資関連の受注統計は、概ねマイナス基調で推移している。機械受注(船舶・電力を除く民需)は前期比で6月▲17.0%、7月22.7%、8月▲4.9%とマイナス基調で推移している。

消費面では、大型小売底店販売額は前年比で5-8%増で推移(8月は8.0%増、9月は4.7%増)。

○雇用情勢は穏やかに緩和の方向へ

労働需給は依然逼迫しているものの、有効求人倍率(季調済)は景気減速を反映して足もと9月は1.34倍へ低下した。景気減速は、労働時間(所定外)の減少から、このように求人段階にまで波及しつつあるが、雇用者数は未だ堅調に増加している。

○物価は基調的に安定

国内卸売物価上昇率は9月に前年比でO.7%と、一段と低下した。消費者物価(東京都区部)は10月の東京都区部が前年比で3.1%上昇と、8月の同3.5%と比べて上昇率が低下している。石油製品と生鮮食品を除いたコア部分は、全国・東京都ともに3%弱程度の上昇率(東京都区部の10月は2.8%上昇)での高止まり傾向が持続。

○貿易収支黒字幅は拡大の兆し

貿易黒字は強含みで推移しており、91年4-9月平均で512億ドル(国際収支ベース)に達した。これは輸出金額の増加、輸入金額の減少の両方によるもの。また、経常収支黒字も380億ドル(前年同期比2.48倍)に増加した。



<イギリス経済>

イギリスでは、消費関連の経済指標を中心に景気回復の兆しが見られる。今年7-9月期の小売売上数量は前期比0.7%増(4-6月期は同▲0.8%)、また、新車登録台数は前期比11.2%増(4-6月期は同▲12.7%)となった。また、10月のCBI(英産業連盟)の企業調査結果によると、企業の景気見通しにも明るさが見え始めているという。物価動向についてみると、小売物価(消費者物価に相当)は、昨年8月からの原油価格高騰により物価が高水準となっているため、前年同月比でみた場合の上昇率は8月以降、急速に改善している。9月の小売物価は前年同月比で4.1%と、7月の5.5%から大幅に低下した。

7-9月期の貿易収支の赤字は月平均で▲7億ポンドと、4-6月期(▲6.9億ポンド)とほぼ同水準となった。輸出は堅調に増加しているものの、輸入も増加しているため、貿易赤字の改善は足踏み状態にある。



<ドイツ経済>

旧西ドイツ地域(以下、西独)の景気は依然堅調であるが、景気拡大のテンポは今年4-6月期以降、減速傾向にある。鉱工業生産は4-6月期に前期比ゼロ成長となり、7-9月期には同▲0.8%の落ち込みとなった。消費関連では、7-9月期の新車登録台数は東独需要の一巡もあり、前期比▲27.7%の大幅減少となった(4-6月期は同13.9%増加)。ドイツ5大研究所の秋季合局経済見通しによると、91年の西独の実質GNP成長率は3.5%と90年(4.5%)から低下し、92年には2.0%とさらに低下する見通しである。

物価面をみると、消費者物価に相当する生計費は、7月に石油税増税、電話料金の引き上げ等から急伸し、前年同月比4.4%と8年半ぶり高水準に達した。しかし、8月以降は、昨年8月からの原油価格高騰による物価押し上け効果の一巡から、前年同月比では急速に低下し10月には3.5%となった。

国際収支については、(1)東独需要の拡大による輸入の増加、(2)世界景気の後退による輪出の減少―等から貿易収支、経常収支ともに悪化傾向にあったが、最近では国内景気が減速し輸入が伸び悩む一方、世界景気の穏やかな回復に伴って輸出が徐々に増加しつつあるため、貿易収支、経常収支の悪化傾向はボトムアウトした模様である。

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