1991年08月01日

来るか難民の時代

  細見 卓

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今世紀終わりの十年は、難民の時代と言われるほど多数の難民の発生が世界の政治・経済体制を動揺させようとしている。

難民には政治的難民と経済的難民との区別があり、前者は政治信条あるいは政治信条に反する体制の出現に反対して国を出る難民であり、後者は生国の経済的貧困に耐えられず国を捨てる難民である。しかしながら、現実に発生する難民は、その何れのカテゴリーに属するか判然とせず、かつ、膨大な数の発生が危倶されている。バルト三国やソ連の新しい政治体制に不満な人々は、ソ連経済がこれ以上混乱・貧困化すれば、政治的難民、経済的難民の何れとも判別困難なものとして大量に国外に流出しよう。

いずれにせよ問題の本質は、今世紀末の社会主義体制の崩壊や戦後の政治新体制の維持が困難となり、世界の各地でこうした難民が続々と発生し、これにストップをかけるような世界の新秩序体制現出が期待できそうもないことである。その最も顕著な例がイラク崩壊に伴うクルド難民の発生であり、更には政治的には本来望ましいとされた東西ドイツの統合においても旧東独では労働力人口の大半が失業状態に陥り二級市民として難民化していることであり、この問題の新たな深刻さを示唆するものと言えよう。一体どれくらいの人数が難民化しているのかについては正確な推計は困難であるが、一説によればその数は5,000万人を上回るとも言われており、それは世界の総人口の1%に匹敵し、その発生はオーストラリアと南極を除く地球上の全ての大陸に及んでいる。

日本を取り巻く近隣諸国をみても中国、インドシナやインド、パキスタン、バングラデシュというように問題含みの国々ばかりであり、戦鮮半島についても統一問題の帰趨如何によっては難民発生について楽観を許さないようにみえる。このように、アジアは一方において急激な経済成長を遂げているのは事実であるが、同時に今後の経済発展の成否如何によっては膨大な潜在難民の発生が予想されており、警戒の自を離せない地域であろう。何れにしてもアジアは世界で最も人口が膨大な地域であり、ひとたび経済困難に陥った時の混乱は予想を上回るものとなろう。

このような環境に取り囲まれている日本は、こうした起こり得る将来の混乱の可能性について充分な展望と対応策を備えていると言えるだろうか。既に潜在的不法入国者数は数十万人とも言われ、その潜入を抑える有効な手立ては先の入管法改正にも拘わらず、機能していない状況にある。一応単純労働者の入口は拒否し、技術者養成の為の入口だけが専門的技術を有する者以外に認められている主な入口であるけれども、実際には研修・学習という形態も形式的なものとなっており、日本人労働者の就労が困難な、いわゆる3K分野での不法就労が目立って増加しているのが実情である。しかも、日本のタテ割り行政の弊害が顕著であり、国全体としてどのようにこの問題に対処するのか未だ基本的・組織的な方策が確立されているとは言えないのは、問題の深刻さからして大変不安なことであり、一刻の猶予も許されないと思う。

西欧等の事例を見ても、又、アメリカにおいて急増するスペイン系等の外国人入国の例をみても、この問題は余程組織的に一貫した固い決心をもって対処しなければ解決がつかないととが明らかになっている。日本にとって大切なことは、国内労働力の構造的な不足について、一方では労働節約的な設備改善に努めながらサービス劣化にも耐えていくのか、あるいは新しい労働力を求めて海外展開するのか、それとも組織的に必要な外国人労働力を導入し続けて行くのか、しっかりした青写真を持つことである。激動する海外情勢に応じて激増が予想される外医人労働者(敢えて難民とは言わないまでも)の入国に対しどのように対処していくかは、避けては通れぬ大きな難題と言えよう。不法入国者への対処を誤って、人道主義を建前とする我が国が外国から人権侵害の非難を招くようなことは言語道断のことであり、それを避ける為にはすぐにも相当の犠牲を払ってでも確固とした方針樹立についての決断をすべき持が来ているようだ。

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