1991年07月01日

ベルリン再訪:崩れぬ心の壁

  熊坂 有三

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■見出し

・消えた統合へのユーフォリア
・消えゆく東独製品
・西独政府の読み違い
・危険な賃金率の急上昇
・やはりレガーノミックス?
・問題多い東独企業の民営化
・ドイツに日はまた昇る

■消えた統合へのユーフォリア

この4月末、ベルリンを一年振りに訪れた。西ベルリンから東ベルリンに入る検問所のあった地下鉄駅フリードリヒ・シュトラーセに行った。昨年は長い列に並ばされたうえ個室に連れていかれパスポートはもちろん、財布の中身、万年筆の中までも調べられた。その厳しい検問を終え、駅の上に出ると西独マルクを東独マルクに1対3で交換するという通賃のヤミ買いの人々に囲まれた。正直言って昨年は東ベルリンに来たという実感があった。東西ドイツの統合を目前とし、この駅は混雑し活気があった。しかし今回は検問用の個室もとり崩され、もちろん西独マルクのヤミ買い人もいない。駅はあまりにもひっそりとしていた。この静けさからたった数ヵ月前のベルリンの人々の統一そして自由への歓喜、涙を想像することは難しい。獲得してしまった自由とは以外とこんな静けさの中にあるのかも知れない。しかし、この静けさから一歩でると旧東独には失業の増大から失望、憤怒の感情があり、旧西独には統一コストの負担増から嘆きとも怒りともとれる感情がある。

ニューヨークからベルリンに向かう機中で元フィギュアースケートの金メダリストだったカテリーナヴィットに似た西ベルリンに往むマティーナという娘と席を隣合わせた。統一選挙の4ヵ月後コール首相が始めて訪れた東独の都市エルフルトで、東独民から首相に卵が投げつけられたり、非難が浴びせられるなどドイツ統一時のユーフォリアは既に消えた。東独民は統一に夢のように描いていた生活水準の向上が見られず苛立っているようだ。統一前の経済シナリオの綻びに加え、コール首相は「過去40年にもわたる独裁と抑圧の下にあった東独民に対する西独民の理解と忍耐の不足を心配している。」と東西ドイツ人の間の摩擦をも懸念し始めた。統一時の「同じドイツ人」という前提は楽観的過ぎたようだ。マティーナは「東独の人々はあまり働かないし、そもそも西独の労働習慣を学ぼうとしない。」と話してくれた。更に、「東ベルリンの人の一部は規制されている月40マルクの住宅費を払った後で、それを西ベルリンの人に1,000マルクで貸している。」と彼女は怒ってもいた。「我々がスーパーで買物をし、支払いのためにレジの前に並んでいると、東独の女の人が買物をし列に並ばずに直接レジの前に行くので注意をしたら、彼女は「我々は40年以上も待っていた。」と答えた。」とマティーナはまるでジョークのような話もしてくれた。経済統合以上に東西ドイツ人どうしの統合が懸念される。ベルリンで乗ったタクシーの運転手が「東西ドイツ人がうまくやっていくには次の世代までかかるよ。」と言っていたのが印象的であった。

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