1991年06月01日

経済の動き

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<米国経済>

'91年1-3月期の実質GNP成長率は前期比年率で▲2.8%(速報値)と、'90年10-12月期から2期連続してマイナス成長となった。また、今回の景気後退入り(景気の山)は'90年7月との公式判定が4月25日に全米統済研究所から発表され、'82年11月を景気の谷とする景気拡大は7年8ヵ月で終了となった。

4月の雇用統計では、失業率(家計調査ベース)は前月比0.2%低下し、6.6%となったが、これは自営業者と政府の雇用者増によるところが大きい。一方、非農業部門雇用者数(事業所調査ベース)は前月比▲12.4万人の減少となり、3月の▲24.1万人(改訂値)に比べれば、減少幅は縮小しているものの、依然として減少傾向である。

生産関係の指標をみると、4月の鉱工業生産は前月比0.1%と10月以来6ヵ月連続しての減少から増加に転じた。但し、設備稼働率は4月も78.3%と前月の78.5%から低下した。設備稼働率は昨年7月以来、10ヵ月連続で低下しており、今後さらに生産関係の指標が改善しない限り、雇用の本格的な増大も見込みにくい。

家計部門の指標をみると、3月の消費者信用残高は'80年の金融引き締め以来、初めて4ヵ月連続で減少する結果となった。この要因としては、消費者信用残高は可処分所得比で既に18%台で高どまりしており、新たに借入を増やそうとする個人が多くないことや、銀行の貸出抑制が考えられる。一方、3月の実質個人消費支出の伸びは前月比で05%増加、2ヵ月連続で増加した。但し、実質可処分所得が今後大幅に増加することは期待しにくいことや、貯蓄率が低い水準にあることから、消費の急速な回復は期待しにくい。

物価動向については、3月の消費者物価は前月比▲0.1%の低下、4月の生産者物価は、0.2%の上昇と落ち着いた動きを示している。変動の大きい食料・エネルギーを除いた消費者物価コア部分は、前月比0.1%と1・2月に一時的要因から高騰した後、安定化傾向となっている。物価上昇の懸念は年初に比べて低下している。

金融面では、FRBは4月30日に公定歩合を6.0%から5.5%に引き下げると同時にFFレートの目標水準をO.25%引き下げて、5.75%とした。今回の利下げに関してFRBは、「経済活動の、特に鉱工業、資本財分野での引き続きの低迷、インフレ圧力の減退の証拠に基づいて行われた」と声明を発表しており、基本的には、足下の景気指標が依然として景気の低迷を示しているため実施されたものとみられる。



<日本経済>

○景気の減速が明確化

日本経済は減速基調が明確化している。経企庁・景気動向指数(一致)も、昨年10月以降50%ラインを推移しており、また生産指数も前月比の推移では横這い圏にある。

個人消費関連の指標を見ると、3月の大型小売店販売額は前年比6.5%増と堅調な伸びとなった。ただ、4月の新車登録台数・乗用車(軽自動車含む)は前年比0.5%減と低迷している。

設備投資動向については、法人企業動向調査(3月1日調査)によれば、'91年度の設備投資計画は前年比1.2%増と低い伸びになっている。

住宅関連の指標をみると、住宅着工件数は金利上昇などの影響で、前年比の伸び率は低下基調を辿り、3月は5ヵ月連続マイナスの16.3%減に。住宅着工件数は今後も減少傾向で推移しよう。

なお、「前期比で見た増勢」から言えば景気は確かに減速しているが、日銀短観・業況判断DIや製造業稼働率、有効求人倍率等の景気の「レベル」は依然高水準であるため、「景気の堅調感」は今のととろ強い。

○タイトな労働需給

労働需給は極めて逼迫している。3月の有効求人倍率(季調済)は1.47倍であり、景気の減速感が強まっているにもかかわらず、依然高倍率のまま推移している。

労働市場のタイト化を映じて、名目賃金指数(全産業、ボーナス等込み)も3月は前年比4.9%と高めの伸びを見せている。

○依然根強い賃金コスト面からの物価上昇圧力

3月の輸入物価は、前月比で3ヵ月連続の下落となった。また国内卸売物価と関連の深い日経商品価格指数も4月は前年比で2ヵ月連続下落した。このように輸入面、国内需給面からの物価上昇圧力はかなり低下してきている。

問題は賃金コスト面からの物価上昇圧力で、この点'91年度の春闘賃上げ率が5.66%(日経新聞調べ)と'90年度を若干下回る水準になったものの、単位労働コストで考えると懸念が残ろう。

賃金コスト面の物価上昇圧力を反映し易い企業向けサービス価格指数は、'91年1-3月期は昨年10-12月期と同じ前年比3.9%の上昇を示している。なお、4月の消費者物価(東京都区部、速報)は前年比3.3%上昇と、3月の3.7%からやや低下したが、これは生鮮品の価格上昇幅が小さかったこともあるが、'89年4月の消費税未転嫁分がサービス価格を中心に'90年4月に回ってゲタが高くなった分、'91年4月の上昇率が低下した面もあろう。

○通関出超幅は拡大

3月の通関統計は、出超幅が約75億ドル(季節調整後)となった。輸出数量指数の伸びが依然高い一方、輸入数量指数の伸びが景気減速・内需鈍化を映じて低下してきたことも大きい、3月の輸入原油の単価は1バレル19.1ドルで、昨年11月の34.1ドルと比べれば、湾岸危機による石油価格上昇分はほぼ剥落したとみられる。



<イギリス経済>

鉱工業生産、小売売上数量などの最近の経済指標をみると、依然、景気の低迷状態が続いているとみられる。政府は、3月の予算発表時に、'91年のGDP成長率は▲2.0%にまで落ち込む('90年の実績は0.4%)との悲観的な見通しを示した。但し、景気は今年半ばにはボトムアウトすると予想されている。

物価動向についてみると、小売物価(消費者物価に相当)の前年同月比上昇率は、'90年10月に10.9%とピークに達した後、原油価格の低下、住宅ローン金利(イギリスの小売物価にはモーゲージ金利支払いが含まれている)の引き下げに伴い低下傾向を辿り、'91年3月には8.2%にまで低下した。しかし、原油や住宅ローン金利などの影響を徐いたコア・インフレに相当する部分は、ほとんど改善していない。

貿易面をみると、輸出の伸び悩み、輸入の減少テンポのスローダウン等から貿易赤字の改善傾向がやや一服している。今年1-3月期の貿易赤字は月平均で9.8億ポンドと、前期(9.9億ポンド)とほぼ同水準にとどまった。



<ドイツ経済>

旧西ドイツ地域(以下、西独)では、景気の拡大テンポが徐々にスローダウンしている。'91年の成長率は、(1)世界経済の減速、今年2月までのマルク高等による外需の鈍化、(2)7月から実施される増税の影響による内需の鈍化などから、昨年(4.6%)を大きく下回る見通しである。

生計費(消費者物価に相当)の前年同月比上昇率は、原油価格の下落に伴い低下し、3月には2.5%にまで低下した。しかし、マネーサプライの増加、対ドルでみたマルク安、高率の賃上げ等による労働コストの上昇、一層の財政赤字拡大の可能性など潜在的なインフレ圧力は依然根強い。

貿易面では、内需の拡大による輸入の増加から貿易収支の黒字が大幅に減少し、これを受けて経常収支(未季調値)は今年1月以降、5年5ヵ月ぶりに赤字となっている。

旧東ドイツ地域(以下,東独)では景気の悪化傾向が続いている。

通貨統合以降、東独の需要が西側製品に集中した結果、東独の小売売上高、鉱工業生産は、統合前の水準からほぼ半減している。この結果、雇用情勢も悪化を続けており、4月の完全失業者数は84万人、失業率は9.5%となった。また、操業短縮対象の労働者は201万人に達した。五賢人委員会(政府の経済諮問委員会)は、雇用が回復に向かうには「数年」かかるとしている。



<オーストラリア経済>

長期間の高金利政策の影響で、国内景気の低迷が続いている。

雇用情勢の悪化も進んでいる。4月の失業率は9.9%と、3月の9.2%(昨年4月の6.3%)から大幅に上昇した。雇用状況の悪化が個人所得や消費者信頼感を抑制する中、国内景気は急速には回復しないと思われる。

住宅投資については、3月の住宅着工認可件数(季節調整値)が前期比▲2.5%の減少となったこと等から、当面、回復は見込みにくい。

一方、'90年1O-12月期の消費者物価上昇率はガソリン価格の上昇などの一時的な要因を背景に、前期比2.7%(前年同期比6.9%)と、'90年7-9月期の前期比0.7%(前年同期比6.0%)から上昇した。

3月の貿易収支(季節調整値)は、国内景気の後退によって輸入が前月比10%減少したこと、輸出が同1%とわずかながらも増加傾向を続けたことを背景に、黒字が6.1億豪ドルへと前月に比べ4倍近く広大した。

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